【人生はプース・カフェ Barに集えば…】イスラエルの夏2001 ②迷いと挑み
プース・カフェとは、様々なリキュールの比重の違いを活かし、幾重に鮮やかな色が重なるカクテル。人生もまた色とりどりの思いでの重なり…
【2.1.空へ】
飛行機は空を飛ぶ。
そんな事は誰でも知っている事なのだけど、はじめてのフライトは緊張する。
ガラス越しにお別れを言った彼女の事を思い出す。たった4か月。されど4ヶ月。希望に満ち溢れているのに、すごく大きな喪失感が襲う。
これから色々な初体験と緊張に直面する。
添付する写真には、私の表情が当時のふやけた日本の大学生から、イスラエル的サバイバーに変わっていく姿が、あからさま過ぎるくらいに現れている。
お店のお客様にその写真を見せた時、「この時の角井さんとは怖くて友達になれなかったかも。」と言われたほどだ。とは言え、私としては、「ふやけている自分」の写真の方を、あまり人に見せたくは無いのだけど。
飛行機はゆっくりと滑走路に向かってゆく。昔は決して苦手で無かった絶叫系コースターに、既に苦手意識を感じ、高所恐怖症も徐々に強くなり始めていた。そのプレッシャーがジリジリと幅寄せをして私は座席の窓側に押し付けられている。一旦飛行機が停止したかとと思うと、またすぐに動き出しスピードを増す。さっきとは違う、もう、飛ぶのか?スピードはどんどん上がって行く!車より速い!怖い!はやい!
浮いた!飛んだ!飛行場への目線が、どんどん下がっていく!離れて行く。海が見える。風の音。
そして、空へ。
【2.2. チャンギ?トランジット?ドバイ?】
当時アジア最大の空港、チャンギ空港では次の飛行機を8時間待つ事になっていた。厳密には入国していないから、海外では無いのかもしれないけど、ここは完全に私にとって初めての海外だ。
成田から約8時間のフライトで体は何となく疲れを感じている。本当はベットでゆっくり寝たいけれど、空港の使い方を知らない私は、とりあえず広い空港をフラフラする。
8時間もあるのだ、ゆっくり次の飛行機を待つ事にしよう。
何となく、1番頼むのが簡単そうなビールを注文し一息つく。「カールスバーグ」だ。食べ物はまだ頼めない。頼み方が分からない。程なくしてビールも無くなり、やる事も無くなり、大きめのベンチを見つけて、少し目を閉じてみる。自分の荷物が気になって寝付けない。仕方なく持ってきた本を開いて、時間を潰しまた飛行機に乗る。
次の到着空港はイスタンブールのはずだった。しかし、少し様子がおかしい。聴き慣れない言葉がアナウンスされている。「トランジット」「ドバイ」不安に駆られる、トランジットとは?そしてドバイとは?
まさか、飛行機を乗り間違えたのか、、、
搭乗口のスタッフが私のチケットを見間違えた!?
無情にも飛行機はドバイ空港へ。誘導されるがままに、人々は飛行機から降りてゆく。流される様に私もついて行く。待ち合いロビーに着くと英語での表記の他に、見慣れない文字が目立つ。恐らくこれは「アラビア語」。
「この先に行ってはいけない!」と直感する。
この先は、、、「ドバイ」だ!
日本人らしき人は見つけられない。途方に暮れ、先ほど同じ飛行機から降りて来たらしい旅行者にチケットを見てもらった。彼は「トランジットだね。」と。そして何か、「問題ない、大丈夫だ。」と言った気がしたので、そのまま彼から一定の距離をキープして、付かず離れず時を待った。
2時間も経たずに、私はまた空の上にいた。
チャンギからトランジットでドバイを経由してイスタンブールに向かっていた。ひどい揺れと、着陸した後の乗客の拍手で目を覚ますまで、私は眠っていたようだ。しかし、後にも先にも着陸で拍手が起きる光景を目にする事はなかった。
【2.3. テルアビブ・ターミナル・キブツ!キブツ!】
テルアビブ空港は、まっ昼間の真夏だった。日差しが容赦なく疲れた私に照りつけてくる。成田を出たのは昼の3時頃だったが、日付はよく分からなくなっていた。恐らく家を出てから30時間は軽く経っている。機内食を何回食べたか、何時間寝むれたのか、分からない。
とにかくここはテルアビブ。アスファルトの上で日差しがジリジリと音を立てている。ビザの事は忘れかけていたが、入国の際に特に問われる事はなかった。そのため勿論、強制帰国させられる事もなかった。
「ボランティア」の発音がうまく出来なくて、わざわざカバンから、ボランティア・オフィスに渡す書類を取り出して、それを見せて通してもらった。もう私はすっかり、「言えない」、「話せない」、「分からない」事に慣れていた。
本当の試練はここからだ。旅行会社のスタッフから、バスターミナルの地図と、バスに乗って向かうボランティア・オフィスまでの行き方の案内をもらっていた。しかし、バスに乗る為の硬貨も無いし、行き先を示すヘブライ語が読めない、、、
ひどい暑さと長旅のせいもあって、思考が停止しそうになっていたので、しばらくバスターミナルのベンチに座って、テルアビブの風景に意識を委ねる事にした。
何十時間も履き替えていないジーンズがもう皮膚と同化しそうになっていた。
そうじゃなければ、こういう夏の暑さは、本当は好きだった。
ターミナルには色々な人が訪れては、去ってゆく。そんな風景に既に身も委ねていた。大きなバックパックを持ってるなら、それは一目で遠くからの旅行者と判断がつく。
アフリカ系の女の子が1人、重そうなバックを持って歩いていた。彼女も僕と同じ旅行者か。彼女は何かを探している様だった。バス停の前にいる地元の人らしき女性に道を尋ねていた。
その瞬間、私の聴覚が急反射する!
「今、キブツって言った!!絶対キブツって言った!」
彼女もキブツに行くのだ、「今!」彼女に着いていかなければ、「一生!」このターミナルで暮らす事になる!急いで駆け寄った私に、振り返った彼女は、驚きの顔もなく穏やかに「どしたの?」といった気がした。私は自分を指差して叫んだ!
「キブツ!キブツ!」と。
つづく…
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