【人生はプース・カフェ Barに集えば…】イスラエルの夏2001 ⑲『ゆっくりと、確実に、過ぎてゆく時間』
プース・カフェとは、様々なリキュールの比重の違いを活かし、幾重に鮮やかな色が重なるカクテル。人生もまた色とりどりの思いでの重なり…
【19.1 雨季の始まり】
11月に入ると、いつも晴天だった空が曇り始めた。それに伴い気温も少しずつ下がり始め、時折半日くらい雨が降る日が増えてきた。
雨季の到来だ。
仕事を終えたボランティア達も、外で過ごす事が少なくなり、気づけばここに来た当初よりボランティアも減っていた。
9.11.のテロ以降、新しくここに来る者は少なかった。
アンディと旅行に行っている間に、なぜかミランとクレアが付き合っていて、間も無くして別れていた。
ここに居られるのも残す所、1ヶ月になろうとしていた。
1人で日帰りでアンディがウォーターパイプを買いに行った、ドゥルースビレッジに私も1人で行った。ハイファからバスで行ける小さな街だ。
100メートル程のショッピングストリートは、ほとんどがウォーターパイプ屋さんだった。
そんな中一軒、可愛らしい小物を置いているお店を見つけて、ふらりと入ってみた。
奥に子供と遊ぶ、お母さんらしき人がテーブルに座っていた。恐らく店の店主だろう。
突如、予想外の出来事が起きた。
彼女が私に気づくなり、目を腕で覆い隠し、テーブルにうつ伏せになった。
一瞬、何が起きたか分からず、反応に遅れた。
しまった、、、、
彼女は顔を知らぬ男に、見せてはいけないのだ。
ごめんなさいと言ってすぐに店を出た。
帰りはまさかのヒッチハイクとなった。
まだ4時なのに、もうハイファへ行くバスが無い。。
幸い通りかかった車が、私をピックアップし娘をハイファ大学へ送るから、ついでに途中まで乗っていけと言ってくれた。
一旦、彼の自宅に行き、娘さんをピックアップする。私の存在に気付いたが、一言も彼女は話しかけて来なかった。
なんとか無事にハイファに着き、バスに乗り混むと、突如、待機命令が出された。テロだ。
バスターミナルのどこかでテロリストらしき者が捕まったと言う。
慣れたと言っても、ここはイスラエル。
忘れてはいけない。
そんなこんなでも、何とか夜にはキブツに戻る事ができた。そして、日本へのお土産のウォータパイプも安く買う事ができた。
雨が降る度に、肌寒くなっていった。
【19.2. 1人小旅行】
1度、旧市街アッコーのお土産屋さんで店主と言い合いになった事がある。綺麗な布を見つけ、値段を聞くと250シェケルだと言う。
ちょっと高いからやめておこう。店を出ようとすると、やはり10シェケルで良いと言う。お前はラッキーだと。
馬鹿にされた感じが嫌だった。
「はじめの価格は何だったの?そんなやり方するヤツからは買いたくない。」
思わず口走ってしまった。
店員も売り言葉に買い言葉で、「お前に売るものはない!出て行け!」と。
やれやれ、、慣れとは怖いものだ。
私の、この国の人に対する敬意が薄れてしまったのか、、何にせよ言い合いは気持ちの良いものでは無かった。
残り少ないここでの生活なのだ。大切にしたい。
ナザレ経由でティベリアの湖に2度目の1人旅にでた。もう何となく相乗りタクシーにも乗り慣れて、どこへでも1人で行ける気分になっていた。時々起きる予想外に長い渋滞だけは、どうしようもなかった。ギュウギュウに詰め込まれたタクシーで左右をおばちゃんに挟まれ1時間も車が動かない事もあった。
そんな時に限って、日差しは強く車の中で皆汗だくになりながら、車が動き出すのを辛抱強く待つのだった。
ティベリアの湖は、1周40キロ程。マウンテンバイクを借りて、1人ツーリングに出た。湖の途中には教会が点在していて、モザイク画の可愛い魚の絵がある教会を目指す。
途中小さな可愛い教会をみつけて、立ち寄ると、牧師さんが日本から来た私を熱い抱擁で、出迎えてくれる。とても気に入ってくれ、よく遠くから来たねと何度も繰り返し、長い抱擁する。
なんだか長いなと思いつつ、牧師さんは慈悲深いからなのだろうと、納得しかけた時、彼の右手が明らかに私の下腹部をまさぐるので、察知して直ぐに教会を後にした。
目的の可愛いモザイク画にたどり着くも、湖を1周する事は断念し、元きた道を引き返した。
帰り道は、念の為に来た道と反対側の歩道を走る事にした。案の定、小さな教会の前を通ると、先程の牧師さんが、向こう側の歩道で私の帰りを待っていた。
「寄っていけ。」と手招きされたが、自転車を日暮れまでには返さないと行けないからと言って、反対側の歩道から手を振って、事なきを得た。
【19.3. レストランに初挑戦】
「地球の歩き方」には幾つかの地元の料理が載っている。今まで外に出た時は、基本はシュワルマ、たまにマックしか食べていなかった。
ここティベリア湖では、20cmを超えるくらいの淡水魚がとれる。そしてそれを素揚げにして、塩、香草やレモンで味付けした料理が名物だと書いてあった。
値段は日本円にして2500円くらいした。限られた収入でやり繰りしていた私にはかなり高額だが、今回はレストランに挑戦しようと決めていた。
ホテルの近くには、オープンテラスのレストランが何軒か立ち並び旅行客で賑わっていた。そんな外に並べられたテーブルで優雅に食事をする事は、私にとって当初からの憧れだった。
ハイファの街でも、レストラン街はいつも賑わっていた。そんな人達を横目に、いつかこの国での生活に慣れて、1人でもそんなお店に入れる様になれたら良いなと思っていた。その思いが叶うほど、私には勇気や語学力がついていた。
希望した通りに、テラス席に案内してもらい、ビールと料理を注文する。本当はこんなお洒落なお店は1人ではなく、彼女や家族と来るべきだよなと再確認しながら、ここに来ると決めた時から、ある程度の寂しさは覚悟していたので仕方がない。
そんな私の気持ちを察したのか、もしくは運ばれていた魚を狙っているのか、1匹の猫が寄っていた。店員が気付いて猫を追い払うが、遠くには逃げていかずに、隣のテーブルの下に隠れている。
私は店員の目を気にしながら、白身のかけらを落としてやる。猫は、すごいスピードでそれに食い付き、そのまま遠くへと走っていった。
つづく…
Bar Blue Reef | バー・ブルーリーフ
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