【人生はプース・カフェ Barに集えば…】イスラエルの夏2001 ⑰『ヨルダン編② 世界遺産ペトラの遺跡から 前編』

お酒

プース・カフェとは、様々なリキュールの比重の違いを活かし、幾重に鮮やかな色が重なるカクテル。人生もまた色とりどりの思いでの重なり…


【17.1. ヨルダンの朝、コーランとスープ】

 ホテルに着いたのは深夜3時過ぎだった。ドライバーの彼が前もって連絡してくれていたはずだが、無人のロビーは薄暗かった。


 彼がイスラム語らしき言葉で話しかけながら、フロントの奥に入って行くと、うたた寝をしていたらしいオーナー風の男が出てきて、我々3人に熱いコーヒーを淹れてくれた。イスラエルとは死海を挟んだ隣の国の筈なのに、ホテルのロビーは冷え切っていた。


 朝起きたらペトラの入口まで、また車で連れて行ってくれると言う親切なドライバーの彼と別れ、それぞれの部屋で仮眠を取った。

 長旅の疲れのせいで直ぐに眠りについたのだろう、、部屋での記憶があまりない。


 驚いたのは朝の爆音での放送だ。朝5時頃だっただろうか、、


 神聖な祈りの言葉なのか、何か危険を知らせる警報なのか、慣れない言語だと、区別がつかない。


 毎朝のコーランの放送だと言う。


 コーランに起こされた私とアンディはロビーに向かうと、ホテルのオーナーらしき男とドライバーの彼は、既にテーブルでコーヒーを飲んでいた。


 我々も何となくその側のテーブルに腰かける。オーナーは席を立ち、間も無くするとトレーに2人分の朝食を運んできてくれた。


 スープとコーヒー、ゆで卵とトーストだ。寒い朝には有難い。ほうれん草の様に見える少しトロミのあるスープは、なんだったのだろうか。私が食べた事のあるスープの中でも、トップクラスの美味しさと、なんとも言えない優しさがあった。


 コーヒーを飲みながら、この辺りの銀行で私のドル建てのトラベラーズチェックが交換できるか尋ねると、ドライバーの彼はわざわざ一緒に銀行までついて来てくれて、カウンターの銀行員にアラビア語で話をしてくれた。しかし、なぜか、残念ながら、今はドルは受けていないとの返答だった。


 財布の残りを見ると、かなり痛手ではあったが、仕方なかった。彼は最善を尽くしてくれた。


 気を取り直して、我々はドライバーの彼の好意でペトラの入口まで運んでもらった。


 冒険者の聖戦の始まりだ!


【17.2. 石を売る少年】

 入口でチケット代を払った気がする。閉門時間も聞いた気がするが、記憶が曖昧で思い出せない。


 まず見渡す遠く先まで砂利の道。

 その先に山のような、岩のような壁が立ちはだかっている。


 さすが、世界遺産だけあって観光客の姿が多く見受けられて、少し安心する。ここ何ヶ月か、パッと見た目でわかる観光客を見ていなかった。


 遠くの方でラクダに乗り砂利道を案内される旅行者も見える。


 トラベラーズチェックを利用できなかった我々は当然歩きだ。


 しばらくは開けた砂利砂漠を行く。所々に岩に掘られた建造物があるが、まだこれは入口周辺の小さな物だろう。


 しかし昼間のヨルダンはとにかく暑い。夜中から早朝の冷え切った空気は一転して、遮るもの一つ無い巨大な太陽がギラギラと照り付けてくる。もう11月なのに、完全に真夏だ。


 体験した事のない、夜と昼の温度差は危険だ。今は暑いので薄着だが、夜中が来たら毛布に包まらないと夜を越せない。そんな夜中になる前に、この遺跡から出るつもりではあったが、温度差の恐怖を心に留めておかなければいけない。


 「ヘイ、ミスター。」


 突然背後から呼び止められた。

 それは、築地の競りで聞くような、長年声を出し続けた結果の、商売人のしわがれ切った、初老の男の声だった。


 声に振り返る私は、その目を疑う。


 目の前にいたのは、少年だ。

 まだ、小学生にもならないだろう。


 そして、その背後の30メートルほど離れたところに、母親と弟らしき2人がこちらを見つめている。


 「Masa!」


 珍しくアンディが強い口調で私を呼び、我々は急いでいるんだ!と私を先に進むよう促す。

 その目が何を伝えようとしているのか、想像はできた。そして、もうこちらを見ずに、歩き始めている。


 目の前のアンバランス感に心が震えた。


 エルサレムの市街の道端で、男が倒れ、目を手で覆い隠して、もう片方の手で、恵みを求める手を差し出していた事を思い出した。


 少年は、幼い時からずっと観光客を見つけては「ヘイ、ミスター」と呼び続けて来たのだろう。

 しゃがれた声で流暢に英語を話すが、おそらく家族とはアラビア語を話すのだろう。


 その声は、、、


 勲章なのか、、、傷なのか、、、


 そんな少年に私はどうしたら、わずかなコインでも渡す事が出来るのだろう、、、、


 アンディはかつて、旅先でそんな少年達に囲まれてしまって、ポケットに入っていた小銭を撒き散らし、その隙にその場を逃げたという怖い経験の話をしてくれた。


 「Masaの気持ちはわかるけど、世界の至る所で、起きている事だし一人一人相手にしていたら、キリがない。時に危険な目に遭うこともある。」と、アンディは言うだろう、


 でも、私は少年に話しかけた。


 少年はドルが欲しいと言う。その代わりに、飛び切り綺麗なペトラの石をくれると言う。

 ブルーや赤や黄色の層が入った小さな石を3つ差し出して来た。


 ドルはないので代わりにディナールを渡すと、彼は私に礼をいい、母親と弟の元に帰っていった。2人は表情を変える事無くこちらを見ていた。


 私は、少し遠くなったアンディの背中を追いかけた。


【17.3. ペトラの遺跡】

 2枚の巨大な岩がそびえ立つ。おそらく高さは50メートルは有るのでは無いだろうか。


 そして、冒険者を誘い込むように、僅かな隙間が空いており、丁度小さな馬車一台くらいの通路となって我々を迎え入れてくれる。


 岩のトンネルを抜けると突如驚愕の光景に言葉を失う。


 完璧なまでの岩の城。


 あの映画の舞台にもなった、まさにそれが、突然目の前に現れた。


 馬に乗って疾走しトンネルをくぐり抜け、その岩の魔境の中へ吸い込まれていく考古学の博士の命を賭けた冒険譚。


 決して訪れる事のない、遠い国の情景の、間合いの中に知らぬ間に入ってしまって迷い込む。圧倒的な存在感は、現実や映画を超えて、少年を冒険に奮い立たせる、、、、、、


 写真撮ろうか?


 アンディの声が私を現実世界に引き戻し、


 パシャリ!

 つづく…

Bar Blue Reef | バー・ブルーリーフ

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