【人生はプース・カフェ Barに集えば…】イスラエルの夏2001 ⑭『ジェルサレムへの旅・後編』

お酒

プース・カフェとは、様々なリキュールの比重の違いを活かし、幾重に鮮やかな色が重なるカクテル。人生もまた色とりどりの思いでの重なり…


【14.1. パレスチナ自治区】

 アンディと私は、朝早く起きて、1階で最安値6シェケルのシュワルマを調達し、2階のドミトリーのソファーで、コーヒーと一緒に死海への旅に備えて朝食をとった。


 ジョーはツアー代を安くする為に、仲良くなった宿泊者にも声をかけたが、結局は4人で行く事になった。


 宿の店主は、店の向かいに止めてある、埃まみれの、かつて白かったであろう古いバンに乗るように促す。なぜか1度、店主の自宅に寄ってから行くと言う。こういう時は、言われるがまま、流れに委ねるしかない。


 店主の家への向かう道は揺れた。しばらく行くと、「パレスチナ」と書かれた標識が目に入って通り過ぎて行った。そして道はどんどん悪くなってゆく。所々でアスファルトがヒビ割れて剥がれている。風が吹くたび、埃が舞った。


 家も、車も、道路標識も、壁も、道路も、何もかもが、大規模な工事現場のように粉塵にまみれていた。


 ジョーは小声で、「私たちパレスチナ地域に入っちゃってるかも、、、」と不安がる。


 でも今更、不安がっても仕方ない。昨晩会ったばかりの、どこの誰ともわからない、宿の店主の誘いに乗るがままに、ここまでついて来たのだ。


 車を止めると、建物の前で兄弟だろうか、男性が立っていた。店主は車を降りて、アラビア語で立ち話をはじめた。やがてそれは言い合いに変わったように見えた。2人は言い合いをしながら、一旦その建物の中に入っていった。


 その時!


 「逃げるなら今だ!」


 アンディが意地悪な表情を浮かべた。



【14.2. 死海ツアー】

 どれだけ覚悟を決めていても、完全に受け入れる事はなかなか出来ない。知らない街、知らない人達、知らない言葉に囲まれると、どうしても疑心暗鬼になってしまう。


 皆胸に手を当てたら、不安と疑いが無かったとは言えなかった筈だ。


 そんな事は露ほどにも知らない店主は、陽気に鼻歌を唄いながら、車を走らせている。死海へゆく途中に、岩砂漠の山があるからそこにも連れて行ってくれると言う提案に、ジョーは笑顔で快諾していた。


 この辺りは街を離れると、岩が剥き出しの痩せた土地が続く。まだ登りきらない太陽と共に、山の頂上を目指すその片道はおよそ40分。店主は麓に止めた車の中で待っていると言う。


 暑さと、強い湿気と、埃でやけに肌がベタベタする。


 山頂には屋根だけの小屋があり、その下に石碑があったが、石に彫られた地図の横に、何が書いてあるはよく分からなかった。そもそも、ここに来て、街で見る文字が、ヘブライ語やアラビア語だと、読む事は不可能だし、英語も話せるようになる事を代償に、またそれを言い訳に、読み書きは一切向上していない、、

 地図なら、見る事はできるが、、


 周りを岩砂漠に囲まれ、見渡しても樹々は点々としか見当たらない。眼下に広がる、その景色の先に、この湿気の源となっているであろう、その湖が、霞の向こう薄っすらとみえる。


 「死海だ!」



【14.3. 水面からの視線】

 死海とは非常に濃度の高い塩湖だ。人が浮いてしまう程に、塩の濃度が高い湖は非常に珍しく、水に浮かびながら新聞を読んでいるシュールな写真をよく旅行雑誌で目にした。


 イスラエルでも有名な観光地の1つになっているはずだった。


 しかし車を降りると、周りに車はなく、ぽつんと1本のシャワーが立っているだけだ。振り返ると、随分前にクローズしたであろう、お土産ショップがあった。


 見渡すと、一定間隔で何本かのシャワーが立っていた。周りに人は居ない。賑わっていた時期もあったのだろうに。


 水辺の岩には塩がこびりつき、塩の彫刻のようだった。アンディは、こんな塩の濃い水に髪をつけると大変な事になるから。と言って入りたがらない。


 「アンディ、ならば、あなたは何故、この地に来たのか、、、」


 と言う疑問を胸に抱えながら、既に塩水に腰まで使っているジョーを追いかける。マーキーもそれに続く。


 水は重くトロッとしてオイルのように体にまとわりつく。舐めるとしょっぱいと言うより、苦味が先に来る。


 「にがり」だ!当時日本で流行っていて、うちの冷蔵庫にも入っていた。1度舐めてみた事があったあれだ。


 目に入ると大変な事になるがもう手遅れで、ひたすら顔を手で拭うしかなくなる。髭を剃らない方がいいと言う事前情報を守って本当に良かったと思う。


 ジョーはもう胸まで浸かっていた。私もほぼ同じ位まで浸かっていたが、特に変化はない。


 あれ、本当に浮かんで新聞を読む事は出来るのか?


 もし浮かなかったら、なんか、、恥ずかしい気がする、、、


 不思議な気持ちに囚われ掛けた次の瞬間、両足が突然浮き上がって、私はラッコのようになっていた。


 「わぉ!」と聞こえた声の方を向くと、ジョーも、マーキーも浮かんでいた。


 「絶対、考え直して入りなよ!」と伝えたアンディも、浅瀬で1人で浮かんでいた、、、



 あれ、、今度は沈めない。。

 ラッコ状態から、うつ伏せに浮かびクロールをしようとしても、顔から肩の辺りまで浮いて、足先も浮かんでしまい、うまく泳げない。ラッコに戻り、足だけで一生懸命水を掻くと少し進む。


 これ、進まないけど、沈まないから溺れる事は無いんだ。縦40km、横幅20km程の大きさの塩湖は年々蒸発して小さくなり、いずれ干上がってしまうという。


 漂流したイカダのように、、、沈まないが、うまく進まず、このまま戻るか、思い切って対岸を目指すか。その距離は相当あるが、はっきりと見えていた。何時間かかるのか、その間に脱水症状で水の上で干上がってしまうのか、、



 そんな、どうでもいい妄想が浮かぶのは、この非現実的状況、沈めずに反射して映る水面。


 その先にある、ヨルダンへの目線と予感のせいだったのかも知れない。

 つづく…

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