【人生はプース・カフェ Barに集えば…】イスラエルの夏2001 ⑪ 『夜や昼の乱れた若者の楽園生』
プース・カフェとは、様々なリキュールの比重の違いを活かし、幾重に鮮やかな色が重なるカクテル。人生もまた色とりどりの思いでの重なり…
【11.1. 完璧なる昼下がり】
イスラエルには沢山の祭日がある。そしてその内何回かは凄く敬虔な宗教色の強い祭日があり、キブツではそう言う日がくると、ボランティア1人1人にその祭日の成り立ちを綴った資料をくれる。
その気が有るなら、滞在期間を伸ばしてヘブライ語や文化を学ぶ教育機関としての機能もある。
そもそも400人くらいのコミュニティ生活は、積極的な協力関係にある村生活であり、キブツ内の大体の人が、大体の人達の、顔も名前も知った中で、そのご近所生活そのものが、社交性の学びの場だった。
とは言え、誤解を恐れずに言えば、若者達は、必要以上の敬意や好奇心を文化や生活に持つよりも、往々にして目先の楽しさを求めがちである。
それはここのボランティアも例外では無い。
大半が2時、3時に仕事を終えて、9割常夏の昼下がりに、どこかから見つけて、運んできたベットやソファーを外に並べ、寝転んで日光浴をしながらコーヒーを飲む。音楽を聴きながら、アラビック文化のウォーターパイプを蒸す毎日。
私も皿洗いからトラクタージョブに変わってからと言うもの、この楽園組の仲間入りをしていた。
人足先早く仕事が終わる私は、スムーズにトラクターの車庫入れを終え、部屋に戻りシャワーを浴びると、部屋の前のベッドに横たわる。
小1時間ウトウトしていると、アンディあたりがコーヒー淹れるけど飲むかい?と声をかけて来る。
声がかからない時は、僕から誰かを探しに行く。
そして、昼下がりのコーヒーと水タバコを嗜み、チェスに興じる。なかなか勝てないものの、終盤まで一進一退となる程に、チェスの腕もあがった。
夕方になってもまだポカポカと暖かい。
初めてここに来た日の夕方は、ベタベタのシャツが背中にへばり付き、埃まみれで、砂利まみれだった。
生活に慣れると、当時との感じ方は大違いだ。
陽が沈むと、簡単に食事を取り、そこから酒盛りが始まる。1人、2人で飲む者もいるし、自然と数人集まって飲み始まるパーティーもある。
ビールとタバコは、いつもクレジットカードでまとめ買いして切らさない様にしておく。途中でなくなっても、昼過ぎにはショップは閉まるので買いに行けないのだ。
毎日昼下がりから暗くなる迄、続く宴と楽園生活は、夜の8時くらいには、散り散りに。
何となくみんな部屋に戻り眠りにつき、朝の6時には仕事に向かう。何とも原始的な太陽の動きに則した完璧な生活。
土曜の夜は、シャバット前の晩餐が大食堂であり、みなで食事を終えて戻るとまた、暗くなる迄ビールを飲む。
そして、土曜日限定でオープンする、キブツの敷地の外れにあるバーまで少し歩く。昼は簡単に行けるその場所も、ほろ酔いで周りに明かりがないと、たまに迷ったり、はぐれたりしながら、人の気配や声を頼りにたどり着く。
50人ほど入れるディスコバーの様な感じで、踊り、飲み、歌い、抱き合う。DJのかけるビートが紫煙を揺らす。
ビールだけではなく、街に出て強いウォッカを買った事もある。ロシアの唐辛子ウォッカのペルツォフカが500mlボトルで500円くらいだった。
3本買い、大量のトマトジュースと一緒に即席ブラッディメアリーを浴びた、、、
酷い3日酔いの末に、2日振りにシャワーを浴びたら背中に激痛が走る、、記憶もなく原因もわからない。
たまたま鏡のあるところで、背中を見る機会があった。20センチほどの切り傷が鋭い石で、強く引っ掻いた様に出来ていた。
誰がこんな事を、、、、
アンディに相談してみると、誰も君を傷つけたりはしていなかったよ。でもMasaが寝たまま動かないから、みんなで部屋まで引きずって連れて行ったんだよ。
そうだったんだ、、、ありがとうアンディ、、
それか、、、
私の部屋へは2段ほど石の階段がある。その一部は以前から欠けて尖っていた。。。
【11.2. アルバイト事件】
我々はボランティアとして週に5日、1日6時間ほど働くと、日本円にして1万円位のお小遣いが、1ヶ月分として貰える。衣食住が基本無料なので、タバコやビール、歯磨き粉、洗剤くらいの日用品を買うには、これで充分に足りた。日本からトラベラーズチェックを10万円分持って行ったが、現金化する機会は、まだなかった。
キブツに慣れた頃に、通常の仕事以外にアルバイトの存在を知る。
ボス・アーロンがキブツで主催している毎週2回のダンスパーティーの運営雑用や、ダイニングルームの夜な夜なの清掃などだ。これらは内容によるが、1晩に2〜3千円ほど貰えるので、頑張れば月に1万円くらい余分に稼げる。楽では無いが当時の若さがあれば大して苦にはならなかった。
アルバイトの枠には限りがあり、古株ボランティアが仕切っていた。アルバイトのインチャージはオランダ人のニックで、彼はお金になる深夜のダイニングルームの清掃をアンディと分担でやっていた。
アンディの計らいで、私はたまにダンスパーティーの雑用の仕事がもらえた。
ダイニングルームをホールとして使う。50代以上くらいの男女が音楽に合わせて踊りまくる。私は彼らの水分補給の為のドリンクを用意をする。
こういう時、日本と違うと思うのは、ドリンクの中に牛乳があったり、なぜかミントティーのミントは生だったり、、
大きなタンクに水と氷、そして怪しいシロップを大量に入れると美味しいジュースの出来上がり。
ミルクが足りなくなるといけないからと、タンクに入れたミルクを水で薄めるニック、、、
誰も分からないだろうというニック、その晩に「このミルク水で薄めてるだろ。」と怒られる私。このミント洗ってないだろ!とミントティーのカップを見せてもらうと、カップの底が土まみれ、、、このジュースら甘すぎる!!
カオスだ。。。
でも何だか楽しくて仕方ない。
ここの国の人は、結構直ぐに怒ったりするけど、細かい事言わずに許してくれる。感情の起伏は圧倒的に激しいけれど、仲良くなった時の近過ぎる感じのギャップが堪らなくいい。
ミルクは薄いかも知れないけど、それしか無いんだ。
ミントは今洗って来るから待っててね。
そんな対応でも、落ちきらない土がミントに残ってても、さっきより大分綺麗になったと褒めてくれる。
たまに監督ニックが様子を見に来て手伝ってくれるけど、1人の時に限って、ミントやミルクやジュースが同時になくなったりする、1人しかいないのに、早く補充してくれと、みんなが言って来て、ひとつ20キロくらいのタンクを何往復も運ぶ。
喉の渇いてる人は、飲むものがないと怒り、満たされた人は笑顔になり、「お前先週もいたな!」と声をかけてくれる。
何だかシュールなコメディ映画みたいだった。私はこのバイトがとても気に入っていた。
そんなバイトでも、不平不満はでるもので。
バイトの配分に偏りがあったり、ギャラが安いだとか、キツイだとか、夜遅いだとか。
ボランティアで話し合って、みんなでアーロンのオフィスに抗議に行こうという事になった。
アーロンは一人一人の話を聞いた。私やアンディは特に不満はなかったから、みんなと来たけど僕らは特に不満はないと言った。一見正当に聞こえる労働者の不満を言う者も何人かいた。
驚いたのは、突然ムフが力強くスピーチを始めた事だった。まだ彼は英語が上手くなっていない。恐らく全体の話も飲み込めていない。そして、その力強いスピーチは、抗議なのか、賛同なのかも、みな分からなかった。アーロンは黙っていた。アンディがムフのスピーチを遮り、チェコ語で何か伝えると、ムフは満足した様だった。
結果として、抗議をした者は全員アルバイトをクビになり、残ったアンディがインチャージに昇格。私はそのまま、パーティ。ムフとミランがニックに変わってダイニングルームの深夜の掃除係になった。
ニックとのパーティー担当も悪くなかったけど、アンディの方がミルクが濃い目で、ジュースが薄目だったので罪悪感が少なくなってよかった。
時には、早い時間に飲み過ぎて、ベロベロになりながら、みんなで力を合わせて、パーティーの林檎を切ったりもした。
【11.3. 昼の誘い、真夜中のプール】
「ん?あっちで誰かが呼んでる。」
「え?Masa..あっちって、誰もいないじゃない、、、」とクレアが言う。
「いや、誰か呼んでるよ、、ちょっと行って来る。。」と、私。
みんなで椅子を出して飲んでいると、そんなやり取りが、流行った。
飲んでいて、ふと私がトイレに行く時に言い出した言葉だった。素直に「トイレ行ってきます。」と言うのも何なので、ちょっとふざけてみたら何となく、みんなが言うようになった。
そんな、くだらないやり取りだが、クレアはとっても感心してくれた。
Masaと初めて会った時のバスでは、言ってる事正直よく分からないし、質問しても通じないし、この人この先、大丈夫かなと心配したけど、今はこうやってみんなを笑わせてくれるし、あなたの言葉によってみんなに影響を与える事が出来ている。あなたの事本当に誇りに思うよ。
と、クレアは言ってくれた。
そんなクレアに私も尊敬と感謝の念を抱いていた。何となく既に古株感が出ていて、何でも思ったとを言うし、リーダーシップがあるし、そんなんだから、たまに他のボランティアと揉めている事を知ってしまう事もあったけど、私にの事は相変わらず弟的に気に掛けてくれていた。
南アフリカ出身の彼女は、街にライオンが出て来た事を経験しているし、生きたゴキブリを素手で掴む事も出来る。育ちが違う。
掴んだゴキブリをこちらに向けて追いかけて来た時は本当に心臓が破裂するかと思った。
クレアは犬は可愛がったが、猫は大っ嫌いだった。アンディと密かに可愛がっていた「キューリを食べる母猫」も1度みんなの飲み会の場に近づいて来てしまった時に、
「月まで蹴っ飛ばすぞ!!」とクレアに怒鳴られて、凄い勢いで逃げていった。「月まで飛ばすなんて最高だよ!クレア!」と言いながら、猫が身を隠す為の時間をかせいだ。
以後、アンディと私は更に隠れて、クレアにバレないように可愛がる様になった。
ある休日の昼からの飲み会は、気付くと殆どのボランティアが集まって来て、10人を超えたパーティーになっていた。
みんないつもより飲んでいて、何だかいつもに増して楽しかった。
突然、女の子が酔っ払って私に絡んできた。
「Masa、私もう飲めないから部屋まで連れてって。一緒に寝よう。」
「?」
え、どう言う事だ??
周りの何人かも、恐らくはっきり聞こえていただろうに、無反応。
寝ようって何だ?
昼だし、、眠くないし、、もっと飲もうよ、、
ん?誘い?ベットへの誘い?
真昼間にど真ん中、直球でくるの?
私は彼女に肩を貸して、パーティーの場を後にし、彼女の部屋に行った。
そして、彼女が先程の言葉を、酔いが覚めたら忘れている事を祈りながら、「おやすみ」と言って部屋を出た。
誘いを断ったと言うより、想定外の事態に対応出来ずフリーズした感じだった。
「おやすみ」は「Good night.」だけど、真昼間なのに、「Good day.」とかじゃなくて良いのか、、、そんな疑問がよぎったが、周りに誰も居なかったから聞けなかった。
彼女を送りに行って、15分ほどで戻った私を見て、「まあ、戻るよね。」って感じと、「おお、戻ったんだね。」って感じの視線を受けた。
パーティーは夜中まで続いた。
ジョーが突然、「これからプールに行こう!」と言い出した。
おお!真夜中のプール。
パーティーの締めくくりには最高のイベントだ。何人かは来なかったが、何人かで塀を乗り越えて飛び込んだ!
水飛沫が至る所で、飛び散った!
昼から飲んでいる。まばらな意識の中で、何だか久しぶりに青春っぽさを感じた。楽しかった。
同時に、このイスラエルでの旅も後半に入ったのだと感じた。滞在期間的にも、ステージ的にも、
ここで若者達は、背伸びをして、羽を伸ばして、胸を張って、生きている、、、
自己主張して、権利を主張して、謙虚さが欠落する時も有るけど、、
自分の居場所を確認しながら、、、
僕らはそんな楽園の中にいた。
つづく…
Bar Blue Reef | バー・ブルーリーフ
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