【高世仁のニュース・パンフォーカス】 大統領選から見えたアメリカの新しい動き

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アメリカの大統領選挙は異例づくめの展開でした。

 州ごとの開票は接戦に次ぐ接戦で、全米が固唾を飲んで見守るなか、投票から4日目にようやく民主党のバイデン氏勝利が報じられました。しかし、トランプ大統領はいまだにその結果を受け入れず、各地で訴訟に訴えています。


【朝日新聞11月10日朝刊】


【バイデン氏の勝利を祝う人々(朝日新聞より) 】


 国際社会の反応は、大勢がバイデン勝利に好感をよせ、とくに、国際協調に背を向けたトランプ氏に煮え湯を飲まされてきたEUは安堵感をあらわにしています。フランス・パリのイダルゴ市長はツイッターに「お帰りなさい、米国」と投稿し、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」への米国の復帰を期待したと報じられています。

 超大国アメリカのリーダーが誰になるかは世界の今後を左右しますから、日本にとっても重大事ですが、メディアを見る限り、バイデン氏の勝利で日本にとって「何が得になり、何が損になるか」ということに関心が集中しているようです。

 しかし、この大統領選挙からは、アメリカの将来の方向性を示唆する新たな動きも見えてきました。アメリカ国民の意識に大きな変化が起きていたのです。


衝撃的な調査があります。アメリカ人の政治意識の変遷をあらわしたグラフです。


【青は民主党、赤は共和党の支持者で縦線は中央値(View Research Center2018)】


 左右の両極化がいま急激に進んでいることを示しています。

 バイデン氏、トランプ氏それぞれの支持者が、連日デモで街に繰り出し、一触即発の事態になっているのをテレビで見て、激しい敵意に驚きましたが、このグラフで納得できました。

 バイデン氏は勝利宣言で、アメリカは青(民主党支持者)も赤(共和党支持者)もない、ユナイテド(団結した)ステイツ(合衆国)だと、団結、融和を訴えましたが、簡単なことではないでしょう。

 これまで私は漠然と、トランプ大統領の存在によって右傾化が進んでいると思っていたのですが、グラフから見て取れるのは、むしろ左傾化の大きな流れです。

 「社会主義」の存在感の高まりはそのあらわれの一つです。

 世論調査で知られる米企業「ギャラップ」は、「社会主義」に好感を抱くアメリカ市民が増えていると報告しています。それはとくに若い層に顕著に見られるといいます。

 65歳以上では、「資本主義」に肯定的な人が60%、「社会主義」に肯定的な人が28%ですが、18歳から29歳の層では、「資本主義」に肯定的な人が45%に対して、「社会主義」に肯定的な人が51%と過半数を占めるまでになっています。(2018年の調査による)

 

 私は、アメリカ人は「社会主義」には拒否反応を示すというイメージを持っていたので、これは意外でした。


 調べてみると、実際に社会主義者たちの活動が広がっており、すでに連邦議会へも進出していることを知りました。

 アメリカ最大の社会主義政党DSA(アメリカ民主社会主義者)は2018年、2人の活動家を民主党から下院に当選させています。その一人、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏は、史上最年少の女性下院議員の誕生としてニュースにもなっていました。


【アレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員(現在31歳)】


 今回、大統領選と一緒に行われた下院選挙(任期2年)では、上の2人は再選を果たし、さらに新たに2人のメンバーが当選確実になっています。

 DSAは2016年に6500人だったメンバーが、2020年10月現在7万5千人と4年で10倍超に急増し、勢いを増しています。驚くのはその平均年齢で、2013年の68歳から、2017年12月にはなんと33歳へと若返っています。新規加入者はほとんど若者なのです。

 DSAの影響力は民主党の中で次第に大きくなっています。大統領候補者を選ぶ予備選挙を思い起こしてください。2016年も今年も、「民主社会主義者」を自称する左派のバーニー・サンダース氏が大健闘をみせて本命のクリントン、バイデンを脅かしましたが、その背景にあるのが若い民主党員の「左傾化」です。


【バーニー・サンダース氏】


ではなぜ、アメリカの若者が「社会主義」に引き寄せられているのでしょうか。

 彼らは30年前のソ連崩壊を知りません。いったいどんな社会主義をめざすのでしょうか。

 DSAはホームページによると、「働く人々が経済と市民社会の両方を運営する」分権型の社会を目標とし、中央集権的な「共産主義」には断固反対するとしています。そして、「少数者ではなく大衆の利益に合致する民主主義」のためには「政府および経済構造のラディカルな改革」が必要だとしつつ、当面の政策として、全国民向けの健康保険制度の確立、人種・性・宗教などのあらゆる差別の撤廃、気候危機に対する抜本的な対策、最低賃金の大幅アップ、富裕層への増税、反ファシズムなどを掲げています。

 目標にするのは、かつてのソ連などとは全く違う社会です。

【DSAのロゴ―赤いバラと握手する肌の色の違う2人の手】 

 世界の若者の動向にくわしい斎藤幸平教授(大阪市立大学)によれば、アメリカ社会を見る上で、「世代」という要素が重要になっているといいます。

 金融資本のもとで資産形成ができた親の世代に対して、若い世代はそもそも運用する資産を持っていません。親たちが株価の高騰を喜ぶ一方で、若者たちは実体経済の悪化のもと、非正規の不安定な仕事につきながら多額の奨学金の返済に苦しんでいます。新自由主義の結果、社会保障が削減されホームレスになる人も増えています。

 アメリカではコロナ禍の3か月間で、富裕層の資産が5650億ドル(約62兆円)増えていたという衝撃的なデータを米シンクタンク「政策研究所」が6月4日に発表しました。

それによると、富裕層の現在の資産総額は3兆5000億ドル(約384兆円)で、感染拡大初期から19%も増加したといいます。背景には株式市場が大幅に値上がりしていることがあります。

 コロナ禍が大量の失業者を生む一方で、富裕層は実体経済と乖離した金融市場で大儲けしているのです。

 富裕層はますます豊かになるのに、病気になっても医療を受けられない多くの人々がいる。格差の拡大は加速し、将来が見えない若者たちは資本主義そのものへの反発を強めているというのです。

 今回のアメリカ大統領選挙では、トランプ氏支持の根強さも印象に残りました。トランプ氏に投じられた票は前回よりも大幅に増え、選挙集会の熱狂ぶりは民主党をはるかにしのいでいました。支持層の中核は、グローバルな競争によって失業や賃下げなどの不利益を被った白人たちだといいます。

 一見激しく敵対し憎悪しあう民主党の極左とトランプ氏支持の極右ですが、どちらも、新自由主義のもとで切り捨てられる「負け組」同士です。

 格差・差別の拡大、非正規職の増加、また気候危機といった問題は、アメリカだけでなく世界に共通しており、「社会主義」運動と極右の両方が各国で盛り上がる傾向が見られます。ともに、今の世の中の仕組みではやっていけないと声をあげ、そのことが左右の対立となり分断を強めています。つまり左傾化も右傾化も危機の深まりと見ることができます。とすれば、その社会の仕組みを大胆に変えない限り、国民の「融和」も成り立たないことになります。

 今回のパンデミックでは、それぞれの国で、これまでの社会的な危機がよりはっきりと可視化されました。  

 日本にとっても他人事ではありません。

 突然雇止めを通告される人、感染の恐怖のなか働き続けるエッセンシャルワーカーなど、社会の負荷は立場の弱い人々を直撃しています。

 11月11日の朝日新聞朝刊には、近年減少傾向にあった自殺者が7月以降増加し、7月から4ヵ月連続で前年同月を上回り、10月は前年同月比4割増の2153人にのぼったとの記事が載りました。とくに若い世代が増えているといいます。

 コロナ禍が過ぎて社会が「通常運転」に戻っても、問題は解決しません。そもそも、もとの社会の仕組みではやっていけなかったわけですから。

 アメリカ大統領選挙から見えた社会の深刻な分断と新たな胎動は、コロナ後の日本社会を構想する上でも、大きな示唆となるのではないでしょうか。

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