【高世仁のニュース・パンフォーカス】強大化する中国にどう向き合うか

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 このところ、中国に関するニュースが増えています。そこで見えてくる中国の顔は二つ。

 一つは、人権を抑圧する全体主義的な国家、もう一つは、世界のリーダーを目指し急速に強大化する超大国です。

 二つの違った顔をもつこの隣国にどう向き合ったらよいのか、一市民の立場から考えてみたいと思います。


 

 国安法(香港国家安全維持法)を6月末に制定・施行したのを機に、中国は香港への締め付けをいっそう強めています。


朝日新聞8月12日朝刊


 香港では9月に立法会の選挙が行われるはずでした。デモや集会が自由に開けないなか、民主派は立法会選挙での勝利を目標に準備を進めていました。

 ところが、香港政府は民主派の候補12人の立候補資格を、国安法に反対したなどの理由で取り消し、つづいて選挙を1年間延期すると発表。選挙という最大の政治参加の機会を奪ったのです。

 10日、民主活動家の周庭さんが逮捕されたことは日本でも大きく報じられました。


逮捕され連行される周庭さん。8月10日


 翌日深夜に保釈された周庭さんは、「外国勢力と結託した」とされる逮捕容疑について「どういう理由で私が逮捕されたのか(警察からは)聞いていない」と語っています。

 周庭さんは、国安法施行前に政治団体を脱退しています。香港は、理由は何とでもこじつけて逮捕する警察国家に変貌したようです。

 周庭さんと同じ日、民主派の大手香港紙「蘋果(リンゴ)日報」創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏も逮捕され、言論の自由はさらに抑え込まれようとしています。

 私は、朝日新聞の「朝日川柳」が好きで必ず目を通しますが、8月12日には香港に関連した句が載っていました。

大国の自由殺しを目撃中 (大阪府 清水康寛)

罪状は何とでもなる国怖し (大阪府 石田貴澄)

 こうした香港の状況に、欧米各国の政府が抗議し、日本政府もやや弱いトーンながら、「香港情勢について引き続き重大な懸念を有している。今後とも関係国と連携し、適切に対応していきたい」(菅義偉官房長官、8月11日午前の記者会見で)と「懸念」を表明しました。

 国際的な人権団体も動いています。ヒューマン・ライツ・ウォッチなど17の民間団体は、世界40カ国の政府に公開書簡を送付し、香港の人権擁護のために行動するよう求めました。

 では中国は孤立しているのでしょうか。

 いいえ。残念ながら、中国の香港に対する措置は、多くの国々から「支持」されているのです。

 国安法採択直前の6月30日、スイス・ジュネーブで開催された第44回国連人権理事会で、日本など27カ国が国安法に反対する共同声明を発表しました。

 ところが、その倍近い53カ国が国安法施行に賛成する共同声明に署名したのです。国の数からいえば、中国の圧勝でした。

 米国はトランプ政権になって人権理事会から脱退しており審議には参加していません。

世界保健機関(WHO)からの脱退も決めるなど、米国は国連から手を引く姿勢を強めています。いまや、国際社会での中国の影響力は米国をしのぐ勢いです。

 自由を求める声は、このまま中国にねじ伏せられるのでしょうか。「中国の脅威」という言葉がリアルに迫ってきます。


 中国の影響力の源は、まずはその巨大な経済力です。

 人権理事会で中国を擁護した国々をみると、カンボジア、スリランカ、ミャンマーなど中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」による多額の援助を受けている国が目立ちます。また中国が早くからインフラ整備などで援助してきたアフリカ諸国も強い支持基盤になっています。

 さらに中国は、途上国に対する単なる援助国ではなく、圧倒的な世界最大の債権国であり、中国一国の海外融資額は、IMFや世界銀行の貸出額を上回るほどになっています。中国の融資は金利が高く、途上国の債務は急速に膨れ上がります。結果、借金漬けになった国々は、中国に頭が上がらなくなるのです。

 中国の影響力拡大を見過ごすことができないのは、世界に独裁政治を広げているからです。


暗殺されたカンボジアの民主活動家ケム・レイ氏の遺体に葬儀場で祈る人々(2016年7月)。高橋智史『カンボジア屈せざる人々の願い』より 


 カンボジアではここ数年、急速に独裁化が進んでいます。最大野党が解散させられ、議会の全議席を与党が独占、政府に批判的な新聞やラジオ局は閉鎖に追い込まれました。政治家やジャーナリストの暗殺も起きています。

 EUが経済制裁を行いましたが、中国の後ろ盾があるフンセン首相は意に介しません。注ぎ込まれるチャイナマネーで、首相周辺などの権力者たちは甘い汁を吸いつづけています。


 コロナ禍で中国の強大化はさらに加速し、世界のパワーバランスを大きく変えるかもしれません。

 今年の第2四半期(4月~6月)は、どの国も経済が激しく落ち込み、米国は実質国内総生産(GDP)が年率換算で前期比32.9%減(速報値、以下も同じ)と、統計の記録を開始した1947年以来最大の減少率となりました。

 日本はというと、内閣府が17日発表した速報値では年率換算27.8%減と、衝撃的な数字でした。

 一方、中国の第2・四半期はプラス成長を達成しました 。中国は感染を基本的に抑え込み、通常の経済活動に戻ることに成功しています。中国の一人勝ちといえます。

 その結果、中国は第2・四半期のGDPで、ついに米国を上回ったとみられます。年間GDP総額でも中国が米国を逆転する日が一気に早まりそうです。

 しかし、中国がいくら強大化しようと、現在のありようのままで世界をリードすることを認めるわけにはいきません。そのことを世界に教えてくれたのが、香港の事態です。

 自由を求める香港人の声は、チベット、ウイグルの人々への世界的な関心をも呼び覚ましました。

 中国当局は近年、ウイグル人やカザフ人ほかイスラム教徒の少数民族など、少なくとも100万人を強制収容していると言われています。目的は、北京語を話し中国共産党に従う人民に改造する再教育を行うためためで、民族独自の言語や文化、宗教的な慣習・行事を厳しく取り締まっています。

 中国当局は情報統制を行っているので、新彊ウイグル自治区の実態をつかむのは困難でしたが、最近、収容された人や収容所関係者への取材で、収容所では女性たちに強制的な避妊や妊娠中絶まで行っていることが分かりました。ここまでくると、明らかにジェノサイド、すなわち「国民的、人種的、民族的又は宗教的集団を全部又は一部破壊する意図をもつて行われた」行為であり、中国の当局者は国際法廷の前で裁かれなければなりません。


新疆ウイグル自治区達坂城区の収容施設。フェンスで囲われている。Reuters

 中国の暴虐に対して何ができるのか。

 まずできるのは、欧米諸国とともに国際的な圧力を中国に加えるよう、政治家や日本政府の尻を叩くことでしょう。香港から逃げてくる人々の受け入れなど、日本独自でやれることを具体化することも必要です。

 しかし、中国はいまや多くの先進国の最大の貿易相手国です。経済を人質に、中国から脅しをかけられたら腰砕けになってしまう可能性大です。

 例えば、韓国でさえ、国連人権理事会での国安法に反対する共同声明には「諸般の状況を考慮して」(カン外相)署名しませんでした。


去年12月の日中首脳会談にて


 それぞれの政府に頼るのではなく、一市民として中国に物申す姿勢を持ちたいものです。

 アウトドア用品で知られる「パタゴニア(PATAGONIA)」は、中国による新疆ウイグル自治区への人権侵害が文化的大虐殺にあたるとして、当該地域からの素材調達をやめることを明らかにしました。中国産コットンの80%以上が新疆ウイグル自治区で生産されていますが、「パタゴニア」は抗議の意味を込めて調達先を変えるというのです。

 これは一つの興味深い「人権活動」です。私たちは、消費者としての立場から、こうした動きを支援できます。

 中国にどう向き合うべきか。

 この問いが世界に突きつけられるなか、同じ地球に生きる市民として、具体的な行動を考えていきたいと思います。

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