【高世仁のニュース・パンフォーカス】コロナ禍があぶりだす日本のガラパゴス化

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  緊急事態宣言が日本全域で解除された5月25日、わが家にようやく2枚のアベノマスクとやらが届きました。


 なんとも皮肉なタイミングに苦笑いしながら、一枚写真を撮りました。わが国のコロナ対策を象徴する歴史的資料になるかもしれません。


 危機のときは、人も国も試されるものです。

 朝日新聞の朝刊で私が好きなコーナーの一つに、社説や読者の「声」が載るオピニオン面の「朝日川柳」があります。23日にはこんな句が載っていました。



 リーダーのメダルの色をコロナ決め (京都府 近藤政子)


 世界がコロナで騒ぎ出したのが1月下旬。ここまでくると、国ごとの対策の優劣が見えてきて、国のトップも比べられてしまいます。支持率急降下の安倍首相はメダルをもらえそうにありませんが、問題はリーダーだけではありません。

 最近、「日本ははたして先進国なのか?」という疑念がわいてきます。わが国の社会が、世界の標準から周回遅れになっているのでは、と思うようになったのです。


 シンガポールの調査会社が、23カ国で新型コロナ危機への対応の評価をそれぞれの国民に聞いたところ、日本がダントツの最低という結果でした。
 政治、経済、地域社会、メディアの4分野それぞれを100点で採点し、合計を4で割って点数を出しますが、平均45点のところ、日本はなんと16点!ちなみに、政治5点(100点満点で!)、経済6点、地域社会6点、メディア47点。日本国民の失望と不満の大きさを示しているのでしょう。


 

  

     給付よりスピード感のある辞職 (東京都 長谷川節)


 同じ日の「朝日川柳」からの一句です。
 「辞職」とはもちろん東京検察検事長の黒川氏ですが、コロナ対策の方は、首相のたび重なる「スピード感をもって」の約束がむなしく響くばかりです。


 遅れに遅れているのが、政府の目玉対策の一人10万円が受け取れる『特別定額給付金』の手続きです。

 ご存じのように、「オンライン申請方式」と「郵送申請方式」があり、マイナンバーカードを持っている人はパソコンやスマートフォンでオンライン申請ができます。高市早苗総務相は、給付を早めるため「オンライン申請」を強く推奨していました。 

 

 ところが実際は、手続きを早めるはずのオンライン申請が、逆に行政の実務を滞らせているというのです。なぜでしょうか。

 役所で行われていることを知って驚きました。特別にオンライン申請の担当者を置き、パソコンを見ながら、申請内容に不備がないか、1件づつ住民基本台帳と目視で突き合わせ、さらに振り込み口座もいちいち確認するという作業をしていたのです。記入間違いがあるので気が抜けない作業です。このため、オンライン申請の方がはるかに手間がかかり、アナログな郵送方式の方が早く処理できると分かりました。総務省も郵送の方が現場の作業が楽な状態となっていることを認めています。

 5月21日の東京・多摩版に「オンライン申請停止へ」という記事が載りました。

 

   東京・八王子市が「確認に手間がかかるので」オンライン申請を24日までで停止し、「作業のスピードを上げるために郵送に絞ることにした」というのです。現場の負担に音をあげたのでしょう。追随する自治体が現れ、東京・国分寺市も26日からオンライン申請を中止することを決めました。


 ドイツではフリーランスへの「コロナ助成金」が、オンライン申請して2日後には銀行口座に振り込まれています。これは4月はじめのことです。

 他の国にやすやすとできることが、なぜ日本ではできないのでしょうか。

 見えてきたのは、日本の行政インフラの恐るべき後進性です。


 まず、マイナンバーです。

 思えば2003年、「住民基本台帳カード」が導入されましたが、有効交付枚数 約717万枚と国民のわずか5.6%にしか普及しないまま、15年に発行終了となりました。

 次に出てきたマイナンバーは「社会保障、税、災害対策の行政の3分野で利用できる」とのうたい文句で始められましたが、5年経っても普及が進んでいません。どこが便利なのかわからず、私もまだカードを持たないままです。あの12桁のランダムな個人番号も覚えられません。


 他の国はどうなっているのか、調べてみました。

 スウェーデンでは、1947年から国民共通番号制度が始まり、IT化も早く、2003年からネット上で確定申告ができるようになりました。
 子どもが産まれると、助産師が出産証明者を作成し、税務署に送付。税務署は10桁のID番号を発行しますが、最初の6桁は生年月日なので覚えやすく、この一つの番号で、税務や社会保障業務、年金管理、自治体の社会サービスなど行政事務全般で利用できるため、利便性が非常に高い。例えば、パスポートの発券は、以前は警察などの行政機関に照会するため長時間かかったそうですが、今はIT化で、申請後わすか数分で可能になっています。

 一方で、プライバシー保護の法制度も整備されており、行政機関同士であってもデータベースの共有はできない仕組みになっています。福祉や人権、ITでも先進国のスウェーデン、さすがです。

 これに対して、わが日本では、マイナンバーを使ってオンライン申請すると行政実務がパンクするのです。コロナ禍ではじめて見えた、信じたくない現実です。


 もう一つ、愕然とさせられたのが、感染者数の報告漏れや重複が大量にあったというニュースでした。

 5月12日の記事で、東京都内での感染者数について、「保健所からの報告漏れが111人分」あり、「そのほか35人分が重複」していたので「差し引きした76人」が実態より少なく報告されていたというのです。


 

     まさかと思う失態ですが、これで終わりではありませんでした。
 「都は21日、保健所からの報告漏れが新たに58人確認されたと発表した。二重計上なども11人あり、都は差し引きした計47人分を感染者総数に追加した」。(22日朝日記事)しかも、「誤りが見つかったのは3月26日~5月3日分」とあり、ミスが長期にわたって繰り返し起きていることが分かります。

 対策を立てる上でもっとも基本的なデータである感染者数を間違えるとは、どうしたことか。その原因はなんと、ファクスの使用にありました。

 「各保健所は都にファクスで感染者を報告していたが、保健所が送信をしていなかったり、都のファクスに不具合があったりした」と記事は伝えています。


 実は、いまどき日本ほどファクスを使う国は他にありません。来日した外国人はよく「まだファクスを使っているのですか」と驚きます。

 米国では、ファクスは博物館の技術史のコレクションに入りました。米紙「ニューヨークタイムズ」は7年も前に「ハイテクの日本でなぜファクスが使われているのか」という記事で、ローテク技術のファクスは社会に深く根付いた「文化」にまでなったと、日本のガラパゴス化を揶揄していました。

 日本で今もファクスが使われるにはそれなりの理由もあり、いちがいに否定するつもりはありません。ただファクスは、送ったはずの文書が届いていなかったり、他の書類に紛れたりという事故が起きやすいことを私自身、経験しています。さらにファクスで受け取ったデータは、集計のため、あらためてパソコンに入力する必要があり、そこでまたミスをする可能性があります。

 国家的に重要なデータを迅速に処理しなければならないときに、ファクスを使うのはすぐにやめるべきです。

 新型コロナウイルス感染は、第二波、第三波が確実にやってきます。遅いうえに不正確なデータ処理は、私たちの命にかかわってくるのです。


 政府には、緊急事態宣言の解除で一息つくのではなく、あらわになった行政インフラの致命的な遅れの改革に、今こそ取りかかってほしいと思います。






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