【高世仁のニュース・パンフォーカス】「ウクライナ防衛の戦いを理解できない日本人」

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2月24日、ロシアがついにウクライナに侵攻し、各地で激しい戦いが行われています。

 

 私はチェルノブイリ原発の取材でウクライナを2回訪れ、原発事故の被災者をはじめたくさんの人たちと交流しました。取材でまわった地域はキエフの北方で、現在ロシア軍の勢力下に入っています。お世話になった人々がどうなったのか、とても気がかりです。


【原発近くの立ち入り禁止区域に暮らし続ける女性。東日本大震災直後に訪れると、「フクシマの人々に同情します。他人事ではありません」と言って涙をこぼした(高世仁『チェルノブイリの今 フクシマへの教訓』旬報社のDVD出版より)】

 

 ロシア軍は、一般の住宅地を砲爆撃し市民に犠牲者が増え続けています。

 包囲された第二の都市ハリコフは廃墟と化し、犠牲者が多すぎて埋葬が追い付かず、放置された遺体は野良犬に食べられていると地元記者は伝えています。

【ハリコフ市は破壊されていない建物はないという(現地のカメラマン、ユーリ・コチュベイ氏撮影(NHK「クロ現」3月15日放送より)】

 

 原子力発電所など核関連施設への攻撃や、学校・病院への無差別攻撃も相次いでいます。さらにロシア軍が、非人道的兵器とされるクラスター爆弾や燃料気化爆弾を使用した疑惑も浮上し、世界中から非難の声が上がっています。


【東部の町、マリウポリの産科病院が爆撃され、負傷した妊婦とおなかの赤ちゃんは死亡した(CNNより)これまで19の病院など保健関連施設が攻撃を受けたとされる。】

 

 首都キエフへのロシア軍の包囲網がしだいにせばまる中、友人の遠藤正雄さんが現地に入り、TBS「報道特集」にリポートを送ってきました。去年9月、本コラムNo.19で紹介した、アフガニスタンに一番乗りしたジャーナリストです。https://www.tsunagi-media.jp/blog/news/19

 遠藤さんのリポートから、臨戦態勢の街の緊張した雰囲気が伝わってきました。


【TBS「報道特集」3月12日放送より。ロシア軍はキエフ中心部から15kmの地点に到達。3月1日にロケット攻撃を受けたテレビ塔の周辺を警備していた兵士は最近まで大学生だったという】

 

 若い兵士はインタビューに「私の祖国だから必ず勝つ」と誇らしげに答えました。

 路上では、ロシア軍の総攻撃に備え、人々が土嚢(どのう)づくりに従事しています。あるレストランでは、数名のボランティアが泊りがけで、700人分の兵士の食事を作っていました。みな自発的に、自分がやれることを見つけて戦いに貢献しています。

 人々の表情と言葉から、祖国を守りぬこうとするかたい決意を感じました。


【土嚢づくりをしていた女性。「報道特集」3月12日放送より】

 

 国境では国外に避難する母子が、国を守るために残る男性と涙の別れをする光景が見られます。市民の士気は高く、防衛隊に志願する人が相次いでいます。志願者のなかには女性や中高年の人まで見られます。



【市民で構成される地域防衛隊の訓練(「報道特集」3月12日放送より)】

 


【ロシアの侵攻に対して、ウクライナでは兵士だけでなく市民も武器をとっている。朝日新聞3月25日付朝刊】

 

 この記事には、防衛隊に志願して闘う、医療の研究職で3人の子どもを育てる母親のマルタ・ユージキフさん(51)が紹介されています。ロシアの侵攻が懸念され始めた1年前から軍事訓練を重ねてきたそうです。戦う理由をこう語ります。

 

「両親も私もウクライナで生まれ、家族のルーツはここにあり、かけがえのない場所。占領下で生きたくない。そうした状況で何が起きるかはっきりわかりますから。そうした状況は絶対に避けたい。そのために戦います。」

 

 ヒトラーそしてスターリンに祖国を蹂躙され、塗炭の苦しみをなめたウクライナ人にとって、祖国を守ることはすなわち自分と家族を守ることにつながるのでしょう。

 

 ウクライナの人々のつよい結束ぶりと、最後まで祖国にとどまって戦おうとする覚悟に尊敬の念を覚えました。ウクライナの戦いを支援したいという思いがつのります。

 

 一方、日本にはウクライナ人は無駄な抵抗をやめるべきだと考える人も多いことを知りました。

 ウクライナがロシアに勝つ見込みはない。戦いが長引けばより多くの犠牲者が出る。だから早くロシアに降伏した方がよい。命より大事なものはこの世にないからだ。―

 3月はじめ、あるワイドショーで、レギュラーコメンテーターがこう発言しました。SNSを見ると、少なくない人の共感を呼んだようです。死ぬ可能性が高いのに、なぜウクライナの人々が進んで銃をとるのか分からないというのです。

 

 以前、本コラムで、日本人は、いざというときに「自国のために戦う」人の比率が世界最低で、戦わないと答えた人がその4倍にもなることを取り上げ、日本は世界でも突出した異常な思想状況にあることを紹介しました。

 (「あなたは日本のために戦えますか?」https://www.tsunagi-media.jp/blog/news/16)

 どこかの軍隊が侵略してきたら、日本人の多くは、逃げるか、すぐに降伏することになりそうです。これではウクライナ人の決死の覚悟はとても理解できないでしょう。

 

 ウクライナ人も命を大事に思い、命を失うのは怖いに違いありません。それにもかかわらず、故郷に踏みとどまってロシア軍に戦いを挑む理由は何でしょうか。

 

 防衛隊に志願した若い男性はこう言っています。

 「家族と国のために死ぬ覚悟はできています。全ての子どもたちのためです」。

 

【「報道特集」3月5日放送より】

 

 ウクライナ人たちが守ろうとする「命」は、私のすべての同胞、そしてまだ見ぬ先に生まれてくる世代をふくむ大きな「命」がイメージされているようです。

 「祖国」という言葉に込められたその大きな「命」のために、ウクライナの人々は戦っている。そして、大きな「命」のために、場合によっては私の「命」を捧げてもよいと考えているのでしょう。

 

 さらに、先の記事のマルタ・ユージキフさんは、ウクライナのためだけに戦っているのではないと言います。

 「ここでプーチンを阻止しなければ、さらに侵攻は広がる。」

 「いま彼を阻止することが、多くの人命を救ことにつながると思います。」

 マルタさんは、世界の人々の命にも思いを馳せているのです。

 

 これに対して、「命より大事なものはこの世にない」と日本人が言うときの「命」は、「私」だけの、また自分の家族など狭い「私たち」だけの「命」を意味しているように思われます。

 端的にいうと、日本人は「自分(たち)だけが助かればよい」のではないか。だとすれば日本は「人にやさしくない国」になってしまうのではないか。そんな危惧を裏付ける調査結果があります。

 

 英国のチャリティーズエイド財団が公表する「世界人助け指数」(World Giving Index)では、過去一カ月に、①見知らぬ人を助けたか、②慈善活動に寄付をしたか、③ボランティア活動をしたかの3項目を各国で質問し、その回答をランク付けしています。

 その2018年版では、日本は①の人助けが142位、②の寄付が99位、③のボランティアが56位で、総合順位は144カ国中128位。先進国のなかでは断トツの最下位です。


【世界寄付指数でのランキング下位国。日本は下から2番目の128位】

 

 日本人が他人に冷たい傾向は、他の調査でも見られます。

 世界47ヵ国を対象にアメリカのピュー・リサーチ・センターが2007年に「政府は貧しい人々の面倒を見るべきか?」と聞いたところ、「同意する」つまり面倒を見るべきだと答えた人の割合が、日本は59%で世界最下位でした。ちなみに最も高かったのはスペインで96%、英国は91%、中国は90%、韓国は87%です。

 日本人は、貧しい人や困っている人を、自分で助けないばかりか、公の力で助けることにも4割の人は賛成しない。他者への共感がとても乏しい社会になっているようです。

 

 日本で「自己責任」という言葉がはびこるのも不思議ではありません。自分さえ良ければ他人はどうなろうとかまわない、という風潮が広がっているとすれば、社会の中での連帯感は稀薄になり、同じ国に住んでいても「同胞」という意識は生まれにくいでしょう。ましてや「祖国」のために一肌脱ごうなどと思わなくなるのは当然です。

 

 こう書いている私自身、日本で生まれ育ったので、日本人のこの“空気”が自分の中にもあることを意識しています。

 しかし、今の日本人の思想状況をこのままにしてよいとは思えません。市民同士の連帯感や共感の乏しいところで、明るい未来の見える国づくりができるはずがないからです。

 あまり注目されることはないけれど、私たちが向き合わなくてはならない大問題だと思います。今後も機会あるごとに、このコラムで考えていきます。

 

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(本稿執筆にあたっては、田中世紀『やさしくない国ニッポンの政治経済学』(講談社2021年)を参考にしました。)

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