【高世仁のニュース・パンフォーカス】「スウェーデンに『新しい資本主義』を学ぶ」

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新年おめでとうございます。よい年になりますようお祈りします。

 

【1月2日 西東京市より富士山に沈む夕陽を撮影】

 

 年明け早々、オミクロン株の感染爆発がはじまり、警戒を緩められないようです。みなさまもご自愛ください。

 

  新年早々、気になるニュースがありました。世界の企業の時価総額ランキングです。

 今回はこの記事から、「コロナ後」を見据えて、日本がどんな仕組みの社会を目指したらいいのかというちょっと大きな問題を考えてみたいと思います。


【朝日新聞11日朝刊1面】


【世界の企業の時価総額ランキングhttps://companiesmarketcap.com/より】

 

 ランキングでは、1位の「アップル」はじめ米国の巨大IT企業や電気自動車の「テスラ」などの急成長が目立つ一方で、日本企業は29位のトヨタが最高。日本企業で他に100位内に入ったのは、92位のソニーグループだけという苦戦ぶりでした。

 10位の台湾の半導体生産企業TSMC、11位の中国のIT大手テンセント、16位の韓国サムスン電子など、アジア諸国の企業が上位に食い込むなか、日本だけが埋没している印象を受けます。1989年には、バブルという特殊な状況だったとはいえ、上位50社中32社が日本企業だったことを思えば、日本の凋落ぶりは目を覆いたくなるほどです。

 このランキングは、時代ごとに勢いのある産業や企業を表しますから、日本が世界の趨勢に遅れ、国際競争力を著しく低下させていることを示しています。

 

さっそく「朝日川柳」(1月12日)でネタにされていました。

 

ランキングの日本企業に見る「平家」 (埼玉県 小島福節)

 

 このまま、栄華を誇ったあと滅びてしまった「平家」になってしまっては困ります。

 去年、本コラムN0.15「日本に『次の産業』はあるのか?」で、最後の牙城、自動車産業でさえEV化で安泰ではなく、その「次」が見えないと日本経済への危惧を書きました。(https://www.tsunagi-media.jp/blog/news/15

 日本社会全体が大きな転換を迫られているように思えてなりません。これから私たちは、どんな方向をめざしたらよいのでしょうか。

 

そのヒントを与えてくれるのがスウェーデンだと思います。その実績を見てみましょう。

 スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界競争力ランキング2021」でスウェーデンは2位(1位はスイス)。世界屈指の競争力を持つと評価されています。日本は64カ国・地域のうち31位と真ん中ほど。ちなみに日本は1989年から 4年連続で世界1位にランクされていました。

 

 一人当たり名目GDP(米ドル)では、日本の4万704ドルに対して、スウェーデンは5万8639ドルとはるかに上回っています。また、平均賃金の推移を見ても、スウェーデン経済のパフォーマンスの良さは際立ちます。


【スウェーデンの順調な伸びと日本の低迷が対照的。(NHKBS1「欲望の資本主義2022」(1月1日放送)より。この番組ではスウェーデンの経済システムを分かりやすく紹介していた)】

 

 スウェーデンといえば高福祉の国として知られています。福祉と成長は両立するのかと不思議に思う方もいるでしょう。でも、スウェーデンがやっていることを見ると、いわゆる福祉国家のイメージがひっくり返ります。

 スウェーデンに私が注目し始めたのは、10年ほど前でした。

 当時、私たちはスウェーデンについての番組を制作していました。取材して驚いたのが、スウェーデンでは赤字企業を救済せず、倒産するにまかせていることでした。そして、倒産で失業したばかりの労働者にカメラを向けると、笑顔で「政府が次の企業に移れるよう世話してくれるから、全く不安を感じない」と答えたのがとても印象的でした。

 

 スウェーデン政府は、「労働者は守るが、企業は守らない」という原則を堅持します。

 その意味は、競争力を失った企業は救済しないが、その企業の倒産によって失業する人は政府が守り、競争力のある別の企業に移るまで、手厚い失業給付で生活を支えるとともに、職業訓練で労働者のスキルアップを支援し、転職を後押しするということです。

 企業を守らないという姿勢は徹底していて、スウェーデンを代表する自動車メーカーの「ボルボ」が経営難に陥ったとき、政府は救済を拒否し、中国企業に売却されるのを放置しました。

 市場原理を重視するはずのアメリカ政府が、リーマンショックでGMやクライスラーが経営破綻したとき、巨額の救済措置を発動したのとは対照的です

 

 日本はスウェーデンとは逆で、変化を恐れ、企業を守ろうとします。赤字企業であっても、なんとか存続させようと、政府は公的資金を投入し続けています。「ものづくり」でアジア勢に敗北した企業を救うため、鳴り物入りで液晶の「ジャパンディスプレイ」、半導体の「ルネサスエレクトロニクス」を設立したのがその例です。結局、どちらもうまくいっていません。

 コロナ禍での雇用調整助成金も、個人にではなく企業に支払う仕組みです。企業を守るのが優先されるわけです。赤字にあえぐ「ゾンビ企業」でも政府が支えて存続させる日本のやり方では、すさまじい勢いで進む産業の構造変化についていくことができません。

 

 スウェーデンの経済運営を根本で支えるのが「同一労働・同一賃金」の原則です。

「同一労働・同一賃金」は、日本では正規と非正規の賃金格差を解消するための原理と理解されていますが、スウェーデンでは「連帯賃金」と呼ばれる金額が中央の労使交渉で決定され、どの産業部門、どの企業であっても同じ労働を同じ時間したら、同一賃金が支払われる原則を意味します。


【同じ職種なら企業を問わず同額の「連帯賃金」が支払われる。左が低収益企業、右が高収益企業で、低収益企業は賃金の負担に耐え切れずに淘汰されていく(NHKBS1より)】

 

 利益がたくさん出ている企業も、赤字にあえぐ企業も、同一賃金を支払うので、赤字企業にとっては負担が大きく、リストラや倒産を迫られます。一方、もうかっている企業にとっては支払うのが楽な金額なので、余裕ができた分を事業拡大に向け、倒産企業の労働者を吸収してさらに競争力をつけていきます。

 つまり「同一労働・同一賃金」原則は、企業、産業間の淘汰をつよく後押しするとともに、高収益企業の賃金を抑制し、企業間の賃金格差を縮小する機能ももっています。

 

 こうした仕組みによってイノベーションが促進され、利益を上げられる企業、有望な産業が生き残り、スウェーデンの経済競争力は常に高く保たれ、順調な賃上げも続いていくというわけです。

 

 スウェーデンの財務相を2006年から12年までつとめたアンダース・ボルグ氏は、テレビのインタビューで、スウェーデンのシステムの特徴を二つ上げ、こう語りました。

 「(第一に)スウェーデンでは教育と労働力の質に常に多くの投資がなされてきました。

 第二に、非常にダイナミックな労働市場があります。雇用と解雇のコストが低く、福祉制度の充実が相まって人々は積極的に転職し、起業家精神にあふれた企業に入ることができます。


【アンダース・ボルグ氏(NHKBS1より)】

 

 企業の淘汰を進める前提には、労働者の転職を支える社会保障と教育・訓練があります。これからのAIの時代は、人的資源がこれまでよりはるかに重要になるはずですから、「労働力の質」に投資することは必須でしょう。

 

 こうしたスウェーデンの優れた仕組みは、日本にも取り入れたくなりますが、そのためには、私たち自身の意識も変える必要があります。

 日本では、ある職場でずっと同じ仕事を続けることができるのがよいとされてきました。スウェーデンのモデルを設計したレーンというエコノミストは、このタイプの雇用保障を「殻の保障」と呼びます。そして、スウェーデンのように労働市場の流動化を前提に、新しい仕事への道を拓いていくことを「翼の保障」と呼びました。

 本当の意味での長期的な雇用保障は、産業構造の転換と経済の成長に支えられる必要があります。今の時代にふさわしいのは、自分の能力(翼)を鍛えながら、企業、産業の間を渡っていく労働者像ではないでしょうか。

 

 もう一つスウェーデンに学びたいのは、気候変動対策に早くから取り組んで、経済成長と両立させている点です。

【CO排出量と経済成長の比較 スウェーデンは青、日本は赤、実線が経済成長で点線がCO2 排出量(NHKBS1より)

 

 スウェーデン政府は、世界の趨勢をつねに先読みして、向かうべき方向を示しながら経済を運営しています。

 日本では今だに、気候変動への対応が経済成長を阻害するという声が経済団体や政府の要人から出てきますが、いま進行中の脱炭素化に乗り遅れてしまえば、日本経済はさらに目も当てられない状態になるでしょう。

 

 岸田文雄首相は、「新しい資本主義」をキャッチフレーズに掲げ、格差の是正、脱炭素化、高い経済成長を追求すると言明しています。

 もし本気でいまの日本の行き詰まりを打開するつもりであれば、これらの目標全てを実現しているスウェーデン・モデルを見習ったらどうでしょうか。


【「新しい資本主義実現本部事務局」を発足させた獅々田文雄首相(左は山際大志郎経済再生相、右は木原誠二官房副長官)2021年10月15日内閣府(朝日新聞より)

 

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〈諸富徹『資本主義の新しい形』(岩波書店)、宮本太郎『生活保障』(岩波書店)、NHKBS1「欲望の資本主義2022」(1月1日放送)を参照、引用しました〉

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