【高世仁のニュース・パンフォーカス】「親子の縁を断ってでも闘う!―あるミャンマー人民主活動家の決意」

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「いま、ミャンマーの人たちは、日本に対してとても怒っていますよ」

 

 こう言って私を驚かせたのは、ソーティナインさんというミャンマー人男性です。

 ミャンマーから日本に脱出して来た人がいると友人から知らされた私は、ぜひ話を聞きたいと会いに行きました。それがソーティナインさんでした。友人たちはソーさんと呼びます。


【ソーティナインさん(都内のレストランにて)】

 

 ソーさんは52歳。彼の半生は、ミャンマーの現代史をなぞるように波乱に満ちています。

 ソーさんは、1988年の独裁に反対する民主化運動に積極的にかかわった学生リーダーの一人でした。全国に広がった運動は、軍部による武力弾圧で数千人の犠牲者を出して鎮圧されます。祖国を離れたソーさんは、日本に来て難民に認定され、苦労しながら生活基盤をつくってきました。

 2012年、ミャンマーでようやく民主化が進んできたと判断したソーさんは帰国を決意します。祖国の発展に貢献しつつ、ミャンマーと日本の「かけはし」になりたいと、JICA や⽇系企業の通訳、翻訳をしながら懸命に働いてきました。ところが、今回の軍のクーデターで⾝の安全が危うくなり、再び祖国を離れざるを得なくなったのです。


【「政治犯支援協会」(AAPP)の速報によれば、クーデター後11月19日までに7410人が逮捕、起訴され、1278人が殺されたという。https://aappb.org/】

 

 10月23日に成田空港に到着し、入国後14日間の「待機期間」を終えたばかりのソーさんに東京都内のレストランで話を聞きました。ソーさんは流暢(りゅうちょう)な日本語で、⺠主化への思いを熱く語ってくれました。日本がミャンマーに対してどう向き合ったらよいのかを考えるうえで、とても参考になると思います。

 

高世の問い:ミャンマーの人は、なぜ日本に怒っているのですか?

 

ソーさん:日本人に対してではなくて、日本の政府に怒っています。

 クーデターを起こした軍と私たち国民は完全に敵対しています。毎日、軍が一般の市民を捕まえて拷問したり殺したりしている、とても緊迫した状況なのです。ここでいったいどちらの味方をするのですか。日本政府はそこがまったくあいまいなのです。

 欧米の国々は、軍に制裁を科しているのに、日本政府は制裁するのを避けています。あいまいなままということは、現状の軍の支配を認めることです。それでは、私たち国民に敵対することになってしまいます。日本政府には、ちゃんとミャンマー国民の側に立ってほしいのです。

 

問い:ミャンマーは親日的な国だと思っていましたが?

 

ソーさん:はい、ミャンマー人は日本に親しみをもっています。

 むかしの戦争の時代にはいろいろあったようで、「ミズゼメ」(水攻め)とか「ピンタ」(びんた)などの言葉が残っていますが、しかし戦後、ダムや橋などのインフラ整備も日本がやってくれたし、日本人の誠実な仕事ぶりは尊敬されています。

 日本は私が16年間、難民としてお世話になった第二の故郷なので、ミャンマーで日本への憤りが大きくなるのは大変つらいです。

 

問い:民主化のために闘う人たちが、武装して軍に対抗しはじめたそうですが?

 

ソーさん:軍と闘う手段はあくまでも平和的にすべきだという意見があるのは知っています。けれども、私たちの平和的なデモに発砲してたくさん殺したのは誰ですか。今も国民に対する軍の暴力は続いているのです。そして軍は国民との対話を拒否しています。

 私たちだって武器をとるのは怖いし、やりたくないですよ。武器は軍の暴力から身を守るためで、正当防衛です。私たち国民の側に対して「平和的手段で」という前に、まずは国際社会が軍の暴力を止めてください。

 

問い:日本に何を望みますか?

 

ソーさん:軍のクーデター政権に一切の支援をしないこと。そして制裁を科して、軍の暴力を認めないとはっきりした態度を示してください。日本政府の外国への支援は、日本国民の税金なのですから、国民のみなさんもぜひ「軍を支援するな」と声を上げていただきたいです。

 選挙で8割の議席をアウンサンスーチーさんのNLD(国民民主連盟)がとりました。それにもとづく正統な政府を軍がひっくりかえしたのです。軍はNLDの議員を捕まえていますが、拘束を逃れた議員たちがつくる「連邦議会代表委員会(CRPH)」が4月に「国民統一政府(NUG)」を立ち上げました。正統政府を引き継ぐこの政府を支持してください。


【アウンサンスーチーさんと。ソーさんはアウンサンスーチーさんを深く尊敬し、理想を共有しているという】

 

問い:軍の支配下のミャンマーではコロナ禍もあって市民生活が非常に厳しいと聞きますが、日本からの人道援助は求めますか?

 

ソーさん:人道援助であっても、クーデター政権を通すなら、私たちは反対します。そんな人道援助なら、苦しい生活もがまんするのでやめてください。軍の政権が一日でも早く終わることが国民の望みなのです。少しでも軍のイメージを上げたり、クーデター政権の延命につながることはしないでほしいのです。拘束中のアウンサンスーチーさんもきっとそう考えているはずです。

 クーデター政権にプラスにならない人道支援なら受け入れますが、どんな形がありうるか、よく考えていただきたいです。

 

問い:ソーさんはこれから日本で何をしようと思っていますか?

 

ソーさん:ミャンマー軍の国民に対する暴力をやめさせ、クーデター政権を倒すために闘います。

 1988年の民主化運動が弾圧されて、たくさんの人が犠牲になりました。30年もかかって待ち焦がれていた民主化がようやく実現しました。海外から人や物が自由に入ってきて経済も上向いていました。国民が喜んでいたところに、軍はクーデターですべてを壊してしまったのです。国民は軍を心から憎んでいます。決して許さないでしょう。

 いまミャンマーでは、大っぴらに声を上げることができないので、私がみんなの代わりに日本で活動していこうと思います。

 日本の一般の人々だけでなく、メディアや政治家などにも訴えていきたいです。

 

問い:顔や名前を出して活動すると、ミャンマーの家族が心配ではないですか?

 

ソーさん:今回、ミャンマーを離れるとき、90歳の父親に「私を勘当してください」と頼みました。私の活動によって家族が睨まれるかもしれませんが、軍がやってきたら、「息子とは縁を切った。関係ない」と言ってほしいと。もう生きて会えないかもしれませんが、父親は私の民主化への決意を理解して私を送り出してくれました。

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 最愛の父親と縁を切ってまで闘うソーさんの決意に、心を打たれました。祖国で早くお父さんと再会できるよう支援したいと思います。

 

ソーさんが言うとおり、日本政府は人権問題では欧米とは異なる対応をしてきました。 

 例えば、いま注目されている中国のウイグル人弾圧の問題です。100万人を超えるウイグル人が再教育センターという名の収容所に入れられ、劣悪な環境下での洗脳教育を強いられていると指摘されています。

 この問題について、3月に米、英、EU、カナダなどが中国当局者らへの制裁を実施しました。EUが中国への制裁に加わるのは、1989年の天安門事件以来のことで、それだけ深刻な事態です。

 ところが日本政府は、「深刻な懸念」を表明しただけで、制裁には加わっていません。

 

 11月10日、第二次岸田内閣が発足しました。岸田文雄氏は以前から、人権問題への対応を強化すると言明していました。そして今回、国際人権問題担当の首相補佐官を新設しました。これは「人権問題への向き合い方」を岸田総理に提言する役割をもつポストです。

 この首相補佐官に任命されたのが、中谷元・元防衛相です。中谷氏は人権侵害で制裁を可能とする「日本版マグニツキー法」の議員立法を提唱してきたことで知られています。


【岸田首相は「首相は9月の自民党総裁選で、中国の新疆ウイグル自治区での人権問題や香港での人権弾圧などを念頭に、人権問題担当補佐官を新しく設ける考えを明らかにしていた」。(朝日新聞デジタル11月8日)】

 

 今後、日本政府が人権問題への対応をどう変えていくのか、注目してゆきましょう。

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