【高世仁のニュース・パンフォーカス】コロナ禍を鳥の目で見る

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   こんにちは。緊急事態宣言のもと、みなさんいかがおすごしでしょうか。

 多くの人が外出を控えているなか、物流や、医療、介護、教育などケア労働に従事している人々が現場を守って働いてくれています。ゴミの収集も遅滞なく行われています。コンビニでは、いまも外国人従業員がマスク姿でお客に応対する姿が見られます。こんな時だからこそ、私たちの暮らしが、数えきれない人々によって支えられていることに気づかされます。

 きょうは4月29日(水)の朝日新聞朝刊を読みながら、コロナ禍について考えてみます。



 朝刊一面は「コロナ危機 疑心デマ情報」の大見出し。そして社会面には、自殺防止などを目的とした相談窓口に悩みの相談が急増しているとの記事が載っています。新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす社会混乱は、人々の心にまで影響を与えているようです。

 社会面の記事によると、「株価急落のため大きな損失が出て家族が自殺してしまい、自分も死にたい」など深刻な相談も寄せられているといいます。

 「新社会人になって上京したが、会社が休みになり、知り合いもいないので孤独だ。帰郷もできない」、「小さな企業を経営しているが、つぶれそう」、「収入が減った夫が、家族にきつくあたってくる」。記事に紹介されている悩みはさまざまです。


 

この異常事態で、気持ちを平静に保って生活することは簡単ではありません。ウイルス感染の恐怖はもちろん、今後の仕事や家計のやりくり、家族それぞれの健康状態や将来設計など、暮らしを取り巻くさまざまな不安が押し寄せてきます。


 困難にあったときには「鳥の目と虫の目の両方で見よ」と言われます。

 日々のウイルス対策や資金繰りはもちろん大切なことですが、しばしそこを離れ、鳥になって空の上からこの世を俯瞰してみましょう。

 

 「ポスト・コロナ」という言葉をよく聞くようになりました。コロナ後の世界は、これまでとは違った価値観やルールで社会が動いていくことになるとみられます。それはいったいどんな世界でしょうか。

 自国中心主義が広がり紛争が多発する、国家が個人を完全に管理する全体主義が台頭する、AI(人工知能)の普及で大量の失業が発生する、格差が拡大し少数者が権力を独占する、などと悲観的な予想も多く、心配になります。

 ETV特集で「世界を代表する知性に人類の今後についてオピニオンを聞く緊急特番」と銘打った『緊急対談 パンデミックが変える世界』が放送されました。(4月21日放送)

 その「知性」の一人がユヴァル・ノア・ハラリ氏でした。世界的なベストセラー『サピエンス全史』で注目されているイスラエルの歴史学者です。


 

ハラリ氏は言います。

 「いま歴史の変化が加速する時代に突入しようとしている。2~3ヵ月の間に、私たちは世界を根底から変える壮大な社会的・政治的実験を行うことになる」と。

 彼も、ポストコロナが民主主義の崩壊など大きな危険をはらむ時代になる可能性を指摘しますが、しかし、将来を決めるのはウイルスではなく、あくまで私たち市民だと強調します。選択権は私たちにあるのだと。

 「グローバルな連帯や民主的で責任ある態度、科学を信じる道を選択すれば、たとえ死者や苦しむ人が出たとしても、人類にとって悪くない時期だったと思えるはずだ。感染拡大のインパクトが何をもたらすのか、その結末は、私たちの選択にかかっている」。

 とんでもない災厄の時代に生まれ合わせたと嘆きたくなる今日この頃ですが、私たちの選択次第では、あとで「悪くない時期だった」と振り返ることもできるというのです。

 ハラリ氏の「歴史の変化が加速する時代」という表現に、第二次世界大戦を思い浮かべました。膨大な犠牲者を出しつつも、多くの植民地が独立を宣言し、国連などの国際協力機関ができ、人権尊重と民主主義体制が一気に広まるなど、たしかに歴史の変化が加速したといえるでしょう。

 朝刊オピニオン欄「多事奏論」に、編集委員の駒野剛さんが、東日本大震災の後の世界つまり「ポスト3.11」について、水俣の悲劇を「苦界浄土」に著した故石牟礼道子さんの語った言葉を紹介しています。


 

「今後、時代はどういう方向に進みゆくのか。私の思うには、もっと厳しい混沌(こんとん)とした状態に陥っていくのではないかと。だが、その混沌はある意味無駄ではないとも思う。これを潜(くぐ)って、そこから何かを見つけ出すのではないか。今後、文明は明らかにこれまでと異質なものになっていくと思う。一国の文明の解体と創生が同時に来るような、それがいまという時ではなかろうか」。(『3.11と私』藤原書店)

 3.11が「一国の文明の解体と創造」であったとすれば、今回は「世界の文明の解体と創造」の時ということになります。

 近代文明の愚かさを深いまなざしで見つめた石牟礼さんが生きていたら、コロナ禍を「潜って、そこから何かを見つけ出す」ほどに賢くあれと私たちを励ましてくれたのではないでしょうか。


 もっと空高くへ羽ばたいて、地球の生物史を見てみましょう。

 私たち人類もその一員である生物の世界には、何度か大きな危機がおとずれました。5回におよぶ大量絶滅の最後のものは6500万年前に起き、陸生生物種の90%が死滅したとみられています。

 体重が25kg以上の動物は死に絶え、食物連鎖の頂点にあった恐竜もそのとき絶滅しました。恐竜は1億3千万年の長きにわたって生物界の王者として繁栄をほしいままにしてきましたが、あっけなく消え去ってしまいます。

 かわって表舞台に登場したのが哺乳類です。小さなネズミのような哺乳類は、恐竜を恐れて夜にだけ活動してきた「日陰者」でしたが、恐竜のいなくなった空白を埋めて大繁栄することになります。

 植物界では、花を咲かせ蜜を蓄え果実を実らせる被子植物が登場し、シダ類やスギなどの裸子植物を圧倒していきます。被子植物の受粉を昆虫が担い、動物が食べた果実の種を糞とともにばらまく。植物・昆虫・動物が共生関係を築くことでともに急激な進化をとげていきます。

 こうして、恐竜の時代を終わらせた生物絶滅の危機は、大小さまざまな哺乳類や鳥類、色とりどりの花を咲かせる植物と多様な虫たちという、一段と豊かな生き物の世界を地球にもたらしました。そこから私たち人類へとつながる類人猿も後に登場してきます。 


21世紀こども百科(小学館)より

 

 ここでも危機は進化を加速させています。

 大きく俯瞰すれば、今回のコロナ禍は必ず終息します。そしてこの危機は、どんな過程を経ようとも、否応なく社会の進化を加速するでしょう。それは避けられません。

 ただ、私たち人間はどんな道を取るかを選ぶことができます。

 戦争や大飢饉などの悲惨を避け、なるべく犠牲が小さく、可能な限り福祉を広げる道を選ぶよう最善をつくす。そう腹をくくって生きていこうと思います。

 いつか、人類にとって「悪くない時期だった」と振り返ることができるように。

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