【高世仁のニュース・パンフォーカス】「日本人ジャーナリストが見たカブール」

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日本人ジャーナリストが、わざわざ海外の遠く離れた現場まで取材に行く必要はない・・。

 そんな風潮がここ数年強まるなか、先日放送された一本の報道番組に注目しました。

 全米各地で同時多発テロ20年記念式典が開かれた9月11日、TBSの「報道特集」で生中継されたのは、アフガニスタンの首都カブールからのフリーランス・ジャーナリスト遠藤正雄さんによる現地リポートでした。


【遠藤正雄さんがカブールから生中継した9月11日TBS「報道特集」】


 8月15日のタリバンによる首都陥落以降、日本人ジャーナリストがアフガニスタンに入国して取材するのは、これが初めてです。

 いま世界の注目がカブールに集まる一方で、日本をふくむ外国からジャーナリストが入国して取材することは容易ではありません。これまでは、カブール住民のSNSや現地メディアからの配信ニュースが、断片的な情報を伝えてくるだけでした。

 アフガニスタンは今どうなっているのか、タリバンによる支配はどんな変化をもたらしているのか。まとまった情報がなく、もどかしく思っていたところでした。

 遠藤さんは長年の友人で、アフガニスタンに精通した歴戦のジャーナリストです。これまでの経歴を生かして困難な入国に成功し、カブール一番乗りをはたしたのです。彼のリポートは、日本人ジャーナリストが現地に行って直接に取材することの大きな意味をあらためて示してくれました。

 番組を観て、まず意外だったのは、カブールの治安が米軍統治下よりはるかに良いという現実でした。  

 遠藤さんは米軍統治下のカブールを何度も訪れています。過去と比較して、今の方が治安がよいと断言できるのは、遠藤さんならではです。


【「治安は確保されている」とインタビューに応じるタリバン兵】


 街には自動小銃をもった多くのタリバン兵がいて警備していますが、インタビューには抵抗なく答えていました。タリバン兵が一般市民に危害を加えることはないとのことで、マイクを向けられた街の人たちは、口々にタリバン政権への不満を吐露し、暮らしの窮状を訴えます。

                                         【カメラに向かって「わずかなパンを買うことも、家賃を払うこともできない」と窮状を訴える女性。】

                                        【そこにタリバン支持者がやってきてたしなめる。街角でちょっとした「バトル」が起きた】


 市場の活気は「以前の3分の2ほど」と遠藤さん。商店主らは、商売はあがったりだと嘆きます。


                                            【タリバンが来る前のほうがよかったと市場の物売りは口をそろえる】

                                                【カメラに寄ってきた子どもの物売り】


 インタビューに答える市民の様子を見る限り、少なくとも街頭での言論統制や取材制限はなさそうです。

 ただ、タリバンは街頭デモについては厳しく取り締り、取材中の現地ジャーナリストにまで暴行を加えています。タリバン統治への抗議行動は、徹底して弾圧する姿勢のようです。

 遠藤さんによれば、以前に比べて街には女性の姿がとても少なく、女性活動家などは身の危険を感じて外出を控えているとのこと。女性の権利が今後どうなるかは、大きな懸念材料です。

                                          【市民の声を聞いていく遠藤さん】

                                              【女性の服装について尋ねると―】


 遠藤リポートの冒頭、パキスタンから陸路国境を越える際に、トラックが路肩に長蛇の列をなしていました。国境は原則、閉鎖されており、物資の不足と食料品などの物価の高騰がカブールの人びとの暮らしに大打撃を与えています。

                                                 【トルハムの国境からアフガニスタンに入った遠藤さん。多くのトラックが国境で止められていた】


 街にあふれる失業者や低所得者が支援を受けられず、厳しい生活を強いられている様子も伝えられました。

 国連によれば、今年は大干ばつにも見舞われ、アフガニスタン国民3800万人の3分の2以上が十分な食事をとれないといいます。飢餓からの救済は国際社会にもつきつけられた大きな課題です。


                                               【公園には地方から避難してきた人たちのテントが並ぶ】

                                                 【とにかくまともな政府になってほしいというテント暮らしの男性】

                                                   【大量の札束を抱える両替商。外貨凍結を受けて通貨アフガニが暴落】


 遠藤さんが市民のさまざまな声を拾うことで、首都のリアルな雰囲気が伝わってきます。

 タリバンは日本という国をどう見ているのでしょうか。

 遠藤さんはタリバンの広報担当に取材します。

 「我々には我々の、欧米には欧米の文化がある。我々をリスペクトしてくれれば、我々もリスペクトする」と広報官は語り、つづいて率直に日本からの支援を要請しました。


                                                    【「日本には様々な分野、とくにIT分野で助けてもらいたい。何十年も助けてくれたのだから、今後も続けてほしい」とタリバン広報官】


 「続けてほしい」とはどういうことでしょうか。

 アフガニスタンはこれまで、政府予算の4分の3以上を海外からの援助で賄っていました。その中の相当部分は日本からのお金でした。タリバン広報官は、その援助を政権が変わっても続けてほしいと言っているのです。

 政権掌握後のタリバンから、日本政府へのメッセージが伝えられたのは初めてです。日本政府の政策立案にとっても重要な情報でしょう。

 アフガン戦争は、911の同時多発テロの首謀者をかくまったとして、米国が当時タリバンが実験を握っていたアフガニスタンを空爆したことからはじまりました。日本は自衛隊が米軍などの多国籍軍に給油支援するかたちでこの戦争に「参戦」しました。

 そしてタリバン政権を倒したあとの20年間、「復興支援」として7600億円ものお金をこの国に注いできました。

 つまり日本は、米国側に立ってタリバン政権を倒し、「米国の傀儡(かいらい)」といわれた政府を莫大な国民の税金で支えてきたのです。アフガニスタンの事態は日本にとって決して他人事ではないことに気づかされます。 


 街で取材中、遠藤さんが日本人とわかり、話しかけてきた市民がいます。その口から、一人の日本人の名前が出ました。「ナカムラ先生」です。


                                             【この男性は中村哲さんと会ったことがあり、「いい人で、私たちの国に尽くしてくれた」と語る】


 医療支援をしていた医師、中村哲さんは、2000年の大干ばつを目の当たりにして、用水路の建設に乗り出しました。中村さんの「100の診療所より、1本の用水路」の合言葉のもと、人びとは団結して用水路を作り上げ、今では65万人の暮らしを支えています。建設を支えたのは、日本政府の資金ではなく、日本の市民一人ひとりからの寄付でした。


                                                     【用水路が荒れ地を緑の沃野に変え、人々は傭兵にならずに暮らせるようになった(写真:ペシャワール会)】


 一昨年12月に銃撃されて亡くなった中村さんを、アフガニスタンの人びとは今も英雄として尊敬しています。

 中村さんは、アフガニスタンへの関与について、日本政府とは違った考えをもっていました。アフガン戦争に自衛隊を派遣するかどうか、国会で審議されていた2001年10月、参考人として招かれた中村さんはきっぱり「自衛隊派遣は有害無益」と言い切ったのです。


                                            【国会の参考人として発言する中村哲さん(2001年10月13日)】


 日本政府のとった立場と行動、そして中村さんの歩んできた道のりを振り返るとき、はたして自衛隊の派遣に意味があったのか、またその後の「復興支援」に投入された私たちの税金は人びとの役に立ったのか、あらためて検証すべきではないでしょうか。

 

 今回の「報道特集」は、タリバンによる首都陥落後の実態をさまざまな側面から明らかにしてくれました。

 それだけでなく、私はこの番組が、ジャーナリズムのあり方への一つの問題提起になったと思っています。

 2015年1月、シリアで「イスラム国(IS)」が後藤健二さん、湯川遥菜さんを殺害するという衝撃的な事件が起きました。

 「そんな危険なところを取材する必要があるのか」という声が沸き起こり、これに乗じるかのように、安倍政権は紛争地など危険地域を取材するジャーナリストから旅券を取り上げるという暴挙に出ました。

 翌2月、トルコからシリアに入って取材する計画を立てていたフリーカメラマン、杉本祐一さんは、警察官とともに自宅にやってきた外務省職員から、「身辺の安全」を理由に旅券返納を命じられました。政府は、杉本さんの出国を事実上禁止したのです。

 他の先進国ではありえない前代未聞の乱暴な人権侵害ですが、世論調査では、この措置に7~8割の人が「適切だった」と答え、政府の強権発動を肯定しました。二人の日本人の殺害という悲劇的な事件の直後とはいえ、この世論調査の結果に私は衝撃を受けました。

 なにも日本人が現場に行かなくても、他の国のメディアからの記事や映像をもらえばいいじゃないか。そんな声が大きくなりました。これを後押ししたのが携帯電話とSNSの普及です。いまや辺境地域の戦闘でさえ、兵士自身がスマホで撮影した生々しい映像が、瞬時に世界中をかけめぐります。

 結果、紛争地など、行くことが困難な現場の取材に挑戦する日本のジャーナリストは減っています。とくにフリーランス・ジャーナリストは、発表する機会が激減し、「冬の時代」を迎えています。

 そんな時代だからこそ、私は今回の遠藤さんによるカブール取材に注目していました。そして期待にたがわず、この番組は、日本人ジャーナリストが現場で取材することがいかに重要か、多くの人に示してくれたように思います。

 現場から日本語でリポートするだけで、カブールがぐっと身近に感じられます。遠藤さんと語り合う市民が「遠くの知らない誰か」ではなく、親しみをもった存在に思えてきます。

 日本人が取材することで、視聴者は、現地の人々の立場に立って感じたり、考えたりし、遠い国の出来事を「自分事」として感じることが容易になります。外国通信社の配信ニュースよりもはるかに受け手に「伝わる」報道になるのです。

 アフガニスタンの事態は、先に書いたように日本にとって他人事ではありません。

 日本大使館や国際協力機構(JICA)の現地スタッフとその家族約500人の退避という残された大きな課題もあります。


                                                     【韓国が400人近い現地スタッフの退避に成功するなか、日本は自衛隊機に一人も乗せることができなかった。(朝日新聞9月1日朝刊)】


 遠藤さんの取材は、日本がタリバン政権にどう向き合うべきかを考えるうえでとても貴重な情報をたくさん提供しています。日本人の視点で取材することは、日本の国益にとっても重要だと言えるでしょう。

 今回の番組が、日本人ジャーナリストによる紛争地を含めた現地取材の意味を、もう一度見つめなおす機会になってほしいと願っています。

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