【高世仁のニュース・パンフォーカス】 あなたは日本のために戦えますか?

ニュース

いま時計の針は夜の11時58分20秒。人類に残されたのはあと1分40秒だけ・・

 アメリカの科学雑誌が今年1月に発表した、人類最後の日までの残り時間を象徴的に示す“終末時計”の時刻です。この雑誌は、1945年にアインシュタインやマンハッタン計画で最初の原爆開発に携わった科学者たちが創設。2年後、人類と地球への脅威を伝えようと「終末時計」をはじめました。



【『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』誌の“終末時刻”発表(1月27日)】


 残り時間の「1分40秒」は、去年と同じで、これまでで最も短くなっています。つまり今の世界は、人類の絶滅を招きかねない、大きな危機を迎えているというのです。

 たしかに、ここ数年、国際情勢はきな臭くなっています。

 シリアやイエメンでの激しい戦闘は、周辺国が介入して終わる気配がありません。2014年にはロシアが突然ウクライナのクリミアを併合し、去年のナゴルノ・カラバフ戦争や中国・インド国境衝突のように領土をめぐる戦闘が続いています。アフガニスタンでは、米軍の撤兵が迫るなか、タリバンと政府軍の戦いがふたたび激化し、現地で慕われた日本人の中村哲さんが命を落しています。

 こうした“火種”が大きな戦争に発展するならば、“世界の終末”はけっして絵空事ではないでしょう。

 日本の周辺でも緊張が高まっています。

 中国が南シナ海で一方的に島や礁をつぎつぎと占拠して軍事基地化するなど、強引な海洋進出を進めています。これに対し、フランス、イギリス、ドイツなど欧州諸国までが海軍をインド太平洋に派遣するなど、中国への牽制を行動で示し始めています。

 国際社会がとくに憂慮しているのが台湾をめぐる情勢です。

 中国は近年、台湾の防空識別圏に戦闘機や爆撃機を侵入させるなど、軍事的な圧力を強化。アメリカでは、米軍司令官が議会で「6年以内に中国は台湾に侵攻する恐れがある」と証言するほど、中国への警戒感を強めています。


【台湾沖で演習を行った中国海軍の艦隊を並走して監視する米イージス駆逐艦「マスティン」。米中両軍がこれだけ接近していることに世界が驚いた。向こうに見えるのは中国が初めて実戦配備した空母「遼寧」(米海軍のHPより)】


 4月、訪米した菅首相がバイデン大統領と発表した共同声明には「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」との文言があり、日本がアメリカとともに台湾をめぐる情勢に関与していくことを明らかにしました。

 台湾有事のさいには、日米安保条約のもと、日本が軍事的にも介入していくのは必至でしょう。



【台湾をめぐる米中の対立を伝える朝日新聞の連載。記事中に「中国軍の圧倒的な勢いに台湾側は対応が困難になってきている」との指摘も(6月6日朝刊)】


 日本が直接に中国と紛争になっているのは尖閣諸島です。

 6月4日、尖閣沖で、中国海警局の「海警」4隻が、領海外側の接続水域を航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認。これで尖閣周辺での航行は112日連続となり、これまでで最長となりました。中国の公船は、日本領海内にもひんぱんに侵入しています。ここでも軍事的な衝突の可能性は確実に高まっています。



【尖閣諸島沖で領海侵入や接続水域への航行を繰り返す中国の公船「海警」。最近は5千トン以上の大型船も頻繁に見られるようになっている(海上保安庁提供)】


 安全保障について考えなくては、と思っていたところに、ある衝撃的な調査結果を目にする機会がありました。

 「世界価値観調査」(WVS)という、世界人口の90%の国々・地域を網羅した価値観に関する国際調査です。世界銀行や国連機関が協賛し、日本での調査には国の研究費助成が出ています。学術論文などにも引用され、権威ある調査とされています。

 

 多くの質問項目のなかに、「自国のために戦うか」がありました。

 質問文は「もう二度と戦争はあって欲しくないというのがわれわれすべての願いですが、もし仮にそういう事態になったら、あなたは進んでわが国のために戦いますか」というものです。「戦争をのぞむか」と好戦性を問うているのではなく、やむなく、どうしても、となったら自分の国のために戦いますかという、慎重なニュアンスの質問です。

 2017~2020年に調査を行った77の国・地域で、「はい」と答えた人が96.4%ともっとも多いのはベトナムでした。中国が88.6%、ロシア68.2%、フランス65.6%、イギリス64.6%、アメリカ59.6%とならぶなか、わが日本は「はい」の答えが世界最低、しかもダントツの最下位です。

 万が一、日本が他国に軍事攻撃されても、戦おうという人はわずか1割と少ししかいないということになります。

 世界全体では、「はい」が64.4%、「いいえ」が27.8%ですから、「はい」が13.2%、「

いいえ」が48.6%の日本は、世界の“常識”から外れた国といっていいでしょう。



【「自国のために戦うか」に対して「はい」と答えた人の割合が多い国々。グラフの青が「はい」、茶が「いいえ」、緑が「わからない」(WVSのデータから友人の三谷真介さんが作成)】



【「自国のために戦うか」に対して「はい」と答えた人の割合が低い国々(三谷真介さん作成)】


 日本人の答えでもう一つ特徴的なのが、「わからない」が38.1%ときわめて多いことです。二番目に多い25.2%のニュージーランドを大きく上回って世界一でした。

 日本が侵略されるなどの有事にはどうすればいいか分からない、そんな事態をそもそも考えたことがない、あるいは考えたくないということでしょうか。

 私はこの調査結果に驚くと同時に、「ああ、やっぱりそうだろうなあ」と納得もしました。私自身、戦後民主主義といわれる空気の中で育ち、この“気分”はよく分かります。戦争や軍隊はどんなものでも“悪”ととらえ、「国を守る」という問題には思考を停止させていたように思うのです。

 みなさんは、この結果をどのように受けとめますか。


 これでよい、日本は独自の道で平和を追求していく、という考え方もあるでしょう。でも、戦争はどちらも望まないのに起きてしまうというのが歴史の教訓です。また、戦争には相手がありますから、こちらが一方的に「戦いません」と言っても通用しないでしょう。むしろ、日本人が抵抗しないことで相手からの攻撃を誘発するかもしれません。

 この調査で興味をひかれたのは、北欧諸国の人々の答えです。

 男女平等をはじめ人権や自由を尊重する平和な民主国家というイメージがありますが、「国のために戦う」と答える国民がとても多いのです。

 ノルウェーの87.6%に続いて、スウェーデン80.5%、フィンランド74.8%、デンマーク74.6%という結果でした。

 スウェーデンは、19世紀から非同盟を貫いて他国と戦火を交えずにきましたが、ロシアがクリミアを併合したことを受けて、軍備強化を進めています。情勢に応じて機敏に国の守りをかためているのです。

 2018年には、2010年に廃止した徴兵制を復活させました。今回ははじめての女性を含む徴兵です。これに対して国民から大きな異論はなかったようです。



【朝日新聞2017年6月7日朝刊】



【スウェーデン南部ゴットランド島の教会にある地下シェルターの分厚い扉を開ける女性。島内には民間シェルターが約350カ所ある(朝日新聞)】

 常に国防を万全にし、有事には全国民が総力で戦うという姿勢を見せる。これが国家安全保障にとって非常に有効とされています。侵略することで得られる利益よりも、痛い目にあって損失の方が大きくなると敵国に思わせる状況を作るのです。

 「拒否的抑止力」といわれるこの考え方を忠実に実践するのがスイスです。今も徴兵制をとり、常備軍のほかに20万人以上の予備役を擁し、最悪の場合には自ら橋や道路、トンネルなどのインフラを爆破して焦土作戦を行うことを公にしています。その「ハリネズミ」と称される毅然とした国防態勢こそが、永世中立をつらぬくことを可能にしたのです。

 ひるがえって日本です。

 日に日に軍事的な緊張が高まる状況のなか、私たちは「国を守る」ことを自分事として考えていないようです。しかし、自衛隊や米軍がかってに戦ってくれといって済ませられるのでしょうか。国会では、どんな武器や装備をいくらでそろえるか議論されていますが、それ以前の問題です。

 日本の平和や安全は何によって守るのか。そこに国民はどうかかわっていくのか。 

 いま私には、どうすればいいのかを言うことなどできません。「自国のために戦うか」という問いの答えを私も考えている最中なのですから。

 

 ところで、あなたは日本のために戦いますか?

(次回につづく)

SHARE