【高世仁のニュース・パンフォーカス】 日本に「次の産業」はあるのか?

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新型コロナの感染が発覚してから、そろそろ1年半。感染がふたたび拡大するとともに国の財政赤字の急拡大も心配になってきました。

 日本の財政はずっと赤字続きです。2019年度までは、年間の赤字額は10兆円台。これ自体巨額ですが、2020年度の赤字は90兆円と異次元の規模に膨らみました。コロナ禍のため特別な出費がかさんだからです。

 これからいよいよワクチン接種がはじまります。感染予防策や休業補償など経済対策での支出は大きくなり、今年度も赤字は尋常な額では収まらないでしょう。もし東京オリンピック・パラリンピックが行われれば、赤字の額はさらに膨大なものになります。

 いまは緊急事態ですから、政府が巨額の歳出を行うことは仕方がないでしょう。でもコロナ後、日本はどんな産業で「稼ぐ」のかが気になってきます。それは、日本の産業の衰退が驚くほどはやく進んでいるように見えるからです。

 5月1日の『朝日新聞』、経済欄に「パナ、テレビ生産縮小へ」との見出しがありました。パナソニックまでがテレビの国内生産をやめるというのです。

 すでに日立や東芝がテレビから撤退(東芝の「レグザ」は中国のハイセンス社資本になりました)、シャープは台湾企業の鴻海(ホンハイ)に身売りしました。ソニーも基幹部品のディスプレイは自社生産をやめています。

 世界を席巻した「日の丸テレビ」も終わりか、と感慨深いものがあります。


【パナソニックのテレビ生産縮小の記事の隣には米国を代表する巨大IT企業が業績を伸ばした記事が・・・朝日新聞朝刊5月1日付朝刊】


 家電の最先端、スマートフォンの生産でも、日本企業は世界市場での競争力がなく、国内ですらアップルやサムスンに販売台数でかないません。近い将来、日本メーカーのスマホは消え去る可能性があります。

 「メイド・イン・ジャパン」の名を世界に知らしめた家電が凋落するなか、70年代から一貫して「稼ぎ頭」であり続けているのが自動車産業です。日本の産業の「エース」とも言えるでしょう。


【名古屋港で輸出を待つ自動車 (朝日新聞より)】


 自動車は部品数が多く優秀な部品生産工業が必要で、日本の自動車メーカーは、巨大なピラミッド状の下請け構造を育て上げました。部品生産企業とのすり合わせによる性能向上や、カンバン方式などによるサプライチェーンの円滑な管理などが高い競争力を支えてきました。長年の努力で築かれた生産態勢はかんたんには真似ができず、自動車産業にかぎっては、日本企業の優位はまだ当分、揺るがないだろうとみられてきたのです。

 しかし、ここにきて、その自動車産業の今後が危うくなっています。

 次世代自動車をめぐる競争が激しさを増し、日本企業がそこでも優位を保てるかが不透明になっているのです。

 日本メーカーは低燃費・低公害技術に優れ、ハイブリッド車で世界をリードしています。ところが、いま「脱炭素」の掛け声とともに、多くの国がハイブリッドを飛び越えてEV(電気自動車)に転換する目標を掲げはじめました。


 ドイツ、オランダ、スウェーデンなどが2030年、ノルウェーにいたっては25年までにガソリン・ディーゼル車を販売禁止にすることを決定。ハイブリッド車も売れなくなります。2030年といえばあと9年、25年は4年先です。待ったなしの対応が迫られ、EVをめぐる競争は熾烈をきわめています。

 既存の自動車メーカーだけでなく、多くのベンチャー企業もEV生産に参入するなか、日本メーカーはスタートで出遅れているようです。

 EVではガソリン車と比べて構造が単純で、部品数が大幅に減ります。主要部品は駆動用モーター、バッテリー、充電器などで、ガソリン車で必要だった燃料噴射装置、クラッチ、トランスミッション、スパークプラグなどは不要になります。

 イスラエルのベンチャー企業「REE」は、モーター、バッテリー、車輪、ブレーキ、サスペンションなどを組み込んだシャーシを設計・製造し販売しています。自動車メーカーはこれに独自のボディーを載せれば、自社ブランドで販売できるのです。


【(REE Automotive HP)】


 「REE」は、モーターをA社から、バッテリーをB社からと、設計デザインに適したものをばらばらに調達するので、自前の部品工場は持ちません。こうなると、日本の自動車メーカーの強みだった膨大な下請け企業の存在は、むしろお荷物となる可能性があります。

 EVといえば、去年トヨタの時価総額を抜いた米国の企業「テスラ」が、世界でダントツの販売実績を誇り、ほかはドイツ、中国のメーカーの健闘が目立ちます。日本のメーカーはそれらの後塵を排しています。


【朝日新聞4月20日付朝刊】


 EVの主戦場は中国です。中国はコロナ禍の昨年も新車販売台数が2500万台を超える世界最大の市場です。EVやプラグインハイブリッド車などの「新エネルギー車」の販売も世界一で、去年は137万台を記録しました。とくに「新エネルギー車」は、今年1~3月で前年の3倍近い売れ行きです。

 上の記事には「中国政府が35年にガソリンのみの新車の全廃を目指し、EVへの移行を後押ししている。ただ、日本を含む海外勢は、(中国メーカーと米テスラなどに)後れをとる」とあります。中国では50社以上のメーカーがEV市場に参入しています。ここでの競争を勝ち抜いた企業が次世代の覇者になるでしょう。

 世界一の市場で日々鍛えられている中国企業からは、ユニークな試みがたくさん生まれています。


【人気のミニEV 遊び心満載だ(NHKニュースより)】


 写真は「上海通用五菱」の2人乗りミニEVで日本円で48万円からと驚愕の低価格。中国メーカーの販売台数トップに躍り出ました。

 販売戦略は実にしたたかです。市場に投入する前に3000台の試乗車を無料で提供。9ヵ月の間、一日の走行距離・行先など膨大なデータを収集して車の装備を決めていきました。車を持たない若い層を取りこむため、車のボディにデコレーションを施し人気企業とタイアップ。SNSで話題となり、ミニEVは若者のおしゃれなアイテムとして広まっているといいます。

 また、EVは充電に時間がかかるのが不便ですが、中国のあるメーカーは、車とバッテリーを切り離して販売するシステムを始めました。バッテリーを充電するのではなく、専用のステーションでバッテリーごと交換するのです。バッテリー交換にかかる時間はわずか3分。月々約1万6千円で何度でもバッテリーを交換できます。

 また、車内にスマートスピーカーを標準装備し、たとえば「駐車して」と声で指示すると自動運転で駐車してくれます。


【バッテリーごと交換することで充電時間のロスを解消(NHKニュースより)】


 驚くようなイノベーションが次々に生まれている中国で、日本メーカーが盛り返すには相当な努力が必要になるでしょう。

 日本企業の出遅れは、日本が国として本格的なEV化に歩みだしていないことが背景にあります。世界の趨勢に尻をたたかれて、日本政府もようやく2035年までにすべての新車をEVやハイブリッド車などの電動車にするという目標を掲げました。しかし現実はお寒い限りです。

 新車の販売にEVが占める割合は、ノルウェーの56%は別格として、ドイツが10.3%、オランダが9.0%、フランスが8.5%(今年3月)などですが、日本は1%にすぎません。EV用の充電スタンドの数は増えるどころか減っています。地図制作会社のゼンリンの調査によれば、公共施設や商業施設など住宅以外の場所に設置された充電スタンドの数は、昨年度は全国で2万9233台で、前の年度と比べ1087台減少しました。充電スタンドというインフラがなければ、EVは普及しません。

 もちろん、ある国の主力産業のラインナップに盛衰があるのは自然なことです。問題は「次」があるかどうかです。

 日本の産業の衰退が進むなか、もし「最後の牙城」、自動車産業までが苦戦することになれば、今後日本は、どんな産業で稼いでいくのでしょうか。日本経済の屋台骨となる「次の産業」は何になるのか。残念ながら、今はそれが見えてこないのです。

 「2018グローバル・イノベーション調査」(strategy&)では世界のR&D(研究開発費)支出上位の上場企業1000社を発表しました。研究開発に熱心で今後のイノベーションが期待される企業ということになります。

 上位5位までは、アマゾン(米)、アルファベット(グーグルの持株会社)(米)、フォルクスワーゲン(独)、サムスン(韓)、インテル(米)と情報通信関連企業が多くを占めました。日本企業は160社がランクインしましたが、276社が入っていた2005年に比べて数は大きく減っています。日本企業の上位はトヨタ(11位)、ホンダ(18位)、日産(37位)などあいかわらず自動車メーカーでした。ここでも日本の「次」が見えません。


【各国の企業部門の研究開発費(購買力平価)】


 90年代からの日本の産業の衰退の大きな原因は、端的に言って、わが国の政府に先を見通した産業戦略がなかったことだと思います。

 東日本大震災で原発の時代が終わったはずなのに、原発輸出という時代錯誤な方針を掲げ、日本企業を巻き込んで進めようとしました。それが東芝を倒産寸前まで追いやり、日立も英国原発プロジェクトに突っ込んで失敗、3000億円の赤字を出しました。

 世界を見回すと、主な国々は将来の経済へのはっきりしたビジョンを持っています。

 EUでは気候危機への対応や脱酸素社会の実現、地域循環型経済の創造などを内容とする「グリーンリカバリー」の旗を掲げ、詳細なロードマップを提示しています。

 米国ではバイデン政権になって、グリーンエネルギーへの莫大な投資を打ち上げ、急速な産業構造の転換を図っています。

 中国は「新世代情報技術」、「航空・宇宙設備」、「省エネ・新エネルギー自動車」、「バイオ医薬・高性能医療機器」などの先端分野に重点的な投資を行い、ハイテク先進国への道をひた走っています。

 新たな産業をはやく育てないと、と危機感が募ります。政府には抜本的な産業育成戦略を作ることにすぐとりかかってほしい。格差の解消や所得の再配分を主に訴えてきた野党にも、どうやって世界で稼いでいくかという問題に知恵を絞ってもらいたいと思います。

 コロナ禍でそれどころではないと言われるかもしれません。でも、たぶん時間の余裕はあまりないように思います。

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