世界に見る男女格差解消への道

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コロナ禍のなか、オリンピックの開会が3ヵ月後に迫りました。盛り上がりはまったく見られませんが、思わぬところで大きなインパクトを日本社会に与えています。「ジェンダー」問題への人々の関心です。

【橋本聖子新会長―女性理事を11人増やし組織委理事会の女性比率を4割に引き上げた(朝日新聞より)】


 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長による女性蔑視発言以来、「男女格差解消」というニュースの見出しをひんぱんに見かけるようになりました。

 いま、さまざまな場所で、性にもとづく差別やセクハラが問題視され、女性の登用を進めようという気運が高まっています。さらには、夫婦別姓や同性婚、LGBTについての認知も急速に進み、国民的な議論ができる素地がつくられました。

 世界から顰蹙をかった森前会長の発言ですが、これはもちろん日本社会の現状を反映しています。

 3月31日、「世界経済フォーラム」が2021年の「ジェンダーギャップ指数」を発表しました。政治、経済、教育、健康の4分野14項目の指標で男女平等度をはかったところ、日本は156カ国中120位。先進国のなかでは最下位で、韓国(102位)や中国(107位)などの周辺国よりも下。しかも2006年は80位でしたから、順位を大きく落としています。

【Global Gender Gap Report 2021より】


 この情けない現状について、伝統的な古い日本社会の構造的な問題で、変えるのは至難の業だとの指摘があります。また、一人ひとりの意識を変えていく地道な努力によってしか男女格差は解消できないともいわれます。

 ほんとうにそうなのでしょうか。

 江戸末期から明治初期に多くの西洋人が来日しましたが、彼らの目には、日本の女性たちは驚くほど自由に映っていました。

 「おそらく東洋で女性にこれほど多くの自由と大きな社会的享楽とが与えられている国はない」(1958年=安政5年に来日した英国使節団員のオリファント)

 庶民においては女性の自由度はいっそう大きかったようです。

 「下層階級では妻は夫と労働を共にするのみならず。夫の相談にもあずかる。妻が夫より利口な場合には、一家の財布を握り、一家を牛耳るのは彼女である」(明治6年に来日し明治44年まで滞在した英国人チェンバレン)

 当時の女性は、飲酒喫煙もほぼ自由で、離婚歴はなんら再婚の障害にはなりませんでした。慎み深く従順な日本女性などという定型化したイメージはここにはありません。

 これらの外国人の記録を渉猟した渡辺京二氏は、「徳川期の女ののびやかで溌溂としたありかたは、明治に入ってかなりの程度後退したかに見える」と書いています。(以上、渡辺京二『逝きし世の面影』平凡社より引用)

 いまの日本社会の男尊女卑のありようは、太古から不変のものでも「伝統」でもなく、わずか150年前にはじまる明治時代以降に形づくられたのです。

 ということは、これを変えることもさほど難しくないはずです。


世界の先進例を学んでみましょう。

 男女平等が進んでいるところといえば北欧です。先の「ジェンダーギャップ指数」では、上位5カ国のうち北欧が4カ国を占めています。

 1位 アイスランド

 2位 フィンランド

 3位 ノルウェー

 4位 ニュージーランド

 5位 スウェーデン

 フィンランドでは一昨年、34歳の現役最年少の女性首相が誕生して話題になりましたが、その時連立を組んだ5党の党首すべてが女性で、うち4人が35歳以下でした。閣僚19人中、女性は12人に上り、7人の男性を圧倒しました。

【フィンランドの女性閣僚―サンナ・マリーン首相(右から2人目)と他の連立政党の党首(閣僚)】


 日本の私たちから見るともう別世界、想像もつかないというのが正直なところではないでしょうか。でも、北欧も昔からこうだったわけではありません。

 数年前、駐日スウェーデン大使(前大使)に男女格差についてインタビューしたことがあります。そのときの駐日大使も女性でした。

 「私が子どもだった1950年代のスウェーデンでは、女は家にいるものだというのが一般的な考え方でした。私の母も祖母も、主婦として家庭を守っていました」。

 この大使のことばには驚きました。

 大使によれば、1960年代に政府が男女平等の促進をうながす強力な政策を施行し、社会がみるみる変わっていったそうです。

 「政治が変われば、意外にはやく社会全体が変わりますよ」と大使。日本も変わることができるのだ、と励まされる思いでした。

 12年連続でランキング1位をキープしているのがアイスランドです。

 駐日アイスランド大使、ステファン・ヨハネソン氏は、先月、朝日新聞のインタビューでこう語っています。

 「1960年代から女性の権利や待遇改善を求める動きが強まりましたが、大きな転換点は、90%以上の女性が参加したとされる75年のストライキです。学校や工場が止まり、女性の存在の重要性が認識されました。80年には世界で初めて民主的な選挙で女性の大統領が誕生。現在は首相を含め、国会議員の約4割が女性です」(3月7日朝刊)

 なんと、アイスランドでさえ、男女平等に向けて社会が大きく変化したのは、60年代以降になってからだというのです。

 日本が120位と低迷した大きな要因は、「政治」の分野での立ち遅れです。

 下院(衆議院)議員に占める女性の比率が、日本は1割(9.9%)にとどまります。現内閣に女性の大臣は2人だけで、過去、女性首相は一人も出ていません。

 はじめて女性に参政権が与えられた1946年の衆議院選挙では、女性は当選者の8.4%でしたから、そこからほとんど増えていないことになります。

 「政治が変われば社会が変わる」というスウェーデン大使の言葉どおり、まず「政治」を変えたいものです。


この点で、参考になるのがフランス。女性議員を急ピッチで増やしているのです。

 意外なことに、1996年時点では、フランスは女性議員の割合がわずか5.9%と、ヨーロッパでは最低レベルでした。

 この状況を変えたのがクオータ制の導入です。クオータ制とは、候補者や議席の一定数を女性に割り当てる制度です。

 2000年、各政党に男女同数ずつの候補者擁立を義務付ける「パリテ法」を制定。そこから女性議員がどんどん増え、去年はおよそ4割に達しました。その結果、性犯罪や性別を理由にした差別への厳罰化を実現させたり、仕事と子育ての両立を可能にする法案、パートナーから暴力を受けた女性を保護するための法案などが次々に可決されています。

【フランスの女性議員の割合の推移】


 議会における女性比率の向上は、フランスの社会経済分野にも波及効果をもたらしています。さまざまな軋轢を生みながらも、企業の取締役会への女性の登用、賃金格差の是正など具体的な待遇改善も着実に進んでいます。

 このフランスにおける社会変革が、日本でやれないわけはありません。

 3月5日、国際的な議員交流団体「列国議会同盟(IPU、本部スイス)」は、世界の国会(下院)で女性議員が占める割合についての報告書を発表しました。昨年国政選挙が行われた57カ国のうち、25カ国がクオータ制を採用。こうした国々では、女性議員の比率は平均27・4%で、採用していない国より11・8ポイント高かったと指摘しています。

 クオータ制はすぐに効果を見せることが確認されました。

 この報告書は、新型コロナウイルスの影響で、政治家同士の人間関係にも変化が生まれたとしています。男性中心の古い慣行や、一部の政治家が情報や権利を独占する「クラブ」的な雰囲気が通用しにくくなり、女性がいっそう意思決定に加わりやすくなる効果を生んだと指摘しています。(朝日新聞3月6日)

 日本でも、高級クラブや料亭で酒を飲みながらという政治スタイルからの脱皮は、女性議員の活躍を後押しすることになるでしょう。今はチャンスでもあります。

【朝日新聞4月1日付朝刊】


日本でも自治体レベルで「ジェンダーギャップの解消」に向けて動きだしたところがあります。

 岩手県釜石市は、23年度までに市が設置する審議会や委員会の女性委員を45%にするとの目標を掲げて女性の登用を進めた結果、昨年4月現在、54ある審議会などの女性委員は42.8%に達しています。

 これは姉妹都市のフランスの小さな町がクオータ制によって市長、副市長のジェンダーバランスをとっていることに釜石市長が感銘を受けたことから始まったといいます。

 次は日本が議会でのクオータ制の導入に進むべきでしょう。

 

 男女格差の大きい日本ですが、政治の舵をきりなおせば、いくらでも国のかたちを変えられるはずです。希望をもちたいと思います。 

【日本で初めてのフラワーデモ(2019年4月) 日本でも女性が声を上げはじめている (朝日新聞より)】

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