【高世仁のニュース・パンフォーカス】 足元にいる「難民」にも目を向けよう(その3)

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恐れていたことが起きてしまいました。在留資格のない外国人を収容する入管(出入国在留管理庁)の施設で、新型コロナウイルスのクラスターが発生したのです。

 場所は東京入管(東京出入国在留管理局、東京港区)。3月3日までに被収容者58人と職員6人の計64人が感染したことが分かりました。58人という人数は、東京入管の被収容者全体の4割超にあたります。

【東京入管 4つのフロアが収容施設になっている (筆者撮影)】


 小さな部屋に何人もが詰め込まれた密閉空間の入管収容施設でのクラスター発生を危惧する声は早くからありました。

【入管収容施設の部屋の一例 (入管HPより)】


 去年4月、日本弁護士連合会は会長声明で「長期収容下で基礎疾患を抱えたまま十分な治療を受けていない被収容者も少なくない状況下にあって、感染者が発生すれば重症化し生命の危険に直結することが懸念される」とし、「受入先のあるなど解放することが可能な被収容者については(略)速やかに収容を解」くことと「適切な医療体制を確保すること」を求めていました。

 東京入管では、一時的に身柄を解放する仮放免を行い、収容人数を約130人まで減らしていましたが、全員個室にするまでには至っていませんでした。

 2月8日、一部の被収容者が熱などの異常を訴えましたが、PCR検査が始まったのはそれから1週間もたった15日で、5人陽性(うち職員1人)が判明。その後、さみだれ的に陽性者が見つかり2人が入院しました。

 2月のコラムで、被収容者から、病気になってもまともに診てくれないなどの不満が出ていることをお伝えしましたが、今回のクラスター発生でも当局の対応に不信感が寄せられています。


【収容されているある男性は、NHKに「(入管の医師に、自分の体調が)普通じゃないですって言ったんですけど。『かぜですね。かぜ薬のんで大丈夫だよ』って(言われた)」と訴えてきたという (3月2日「おはよう日本」より)】


 クラスター発生を受け、関東弁護士会連合会はあらためて被収容者の解放を求める理事長声明を出しましたが、その中で「この集団感染の背景にはそもそも国際法違反の無期限収容が存在する」と指摘しています。

 ではなぜ、日本では入管施設に外国人を長期収容するようになったのでしょうか。


【収容期間の内訳(「難民支援協会」作成)】


 収容期間の内訳をみると、収容が長期化する傾向がはっきりわかります。かつてはほとんどが収容は長くても半年以内でした。それが数年前から、半年以上の長期収容が過半数を占めるようになり、なかには4年、5年と異常な長さの収容が続く人も出てきました。

 その背景として指摘されているのが、東京オリンピック・パラリンピックに向けての治安対策です。

 2016年4月、全国の入管に「安全・安心な社会の実現のための取組について」と題する内部通知が回されました。通知は2020年に予定されていた東京五輪に触れつつ、こう記しています。

 「安全・安心な社会の実現のためには」、「近年増加傾向にある不法残留者及び偽装滞在者(以下「不法滞在者等」という)のほか、退去強制令書が発付されても送還を忌避する外国人(以下「送還忌避者」という)など我が国社会に不安を与える外国人を大幅に縮減することは」、「当局にとっての喫緊の課題となっています。」(下線は筆者)

 「不法滞在者」とともに「送還忌避者」が、「我が国社会に不安を与える外国人」とされ、東京五輪までに「大幅に縮減する」べき対象になっています。

 この治安対策が、入管が退去強制を進め、「送還を忌避する外国人」を収容し、仮放免(一時的に解放する措置)を厳しく制限して社会に出さないようになった大きな要因とみられているのです。

 

 では、なぜ送還を忌避する外国人がいるのか、もう一度おさらいしましょう。

 入管施設に収容されているのは、日本に在留する資格を持っていなかったり、資格外の就労などの活動をしたために「退去強制」の対象とされた外国人とされています。

 実際は、ほとんどが「退去強制」を命じられたらすぐに日本から出て帰国します。「強制」といいながら、95%は自費で出国しています。

 「退去」せずに苦しい収容に耐えているのは、帰国できない理由がある人たちです。例えば母国が独裁政権下で迫害を受ける可能性があり難民申請をしている人や、日本人と結婚して家族ができ日本に生活基盤がある人などです。現在、入管施設に収容されている人の3分の2は難民認定の申請者です。

 長期収容者たちを支援する弁護士やNPOは、入管は収容制度を懲罰的に使って「送還忌避者」が「自主的に」出国するように仕向けていると批判しています。長期に収容することで「出国忌避者」が心身ともに疲れ果て、経済的にも生活が困難になり、自ら出国するしかない状況に追い込んでいると。自費で出国してくれるなら、国の懐も痛まずに厄介払いできるというわけです。

 こうした帰るに帰れない人びとは「我が国社会に不安を与える」存在なのでしょうか。

犯罪人でもないのに、家族や友人と引き離し、刑務所よりひどい環境に期限を定めずに拘束してよいのでしょうか。ある人を収容するかどうか、仮放免するかどうかを裁判所ではなく一行政機関である入管の裁量で決めてよいのでしょうか。

 収容期限は、欧州連合(EU)では原則6ヵ月、米国は原則90日と上限を設定しています。国連機関は、長期に拘束する日本の収容制度を「国際人権法と国際人権規約に違反している」と厳しく批判し、入管法のすみやかな見直しを要請しました。

 2月19日、政府は長期収容の解消をめざす入管法改正案を国会に提出しました。


【入管法改正案の閣議決定を報じる朝日新聞2月20日朝刊の記事 】


 ところがこの改正案には、国連が要請した改正点である、自由を拘束する収容の審査を裁判所が行うことや収容期間に上限を設けることなどがまったく含まれていません。

 もっとも問題なのは、難民認定の申請回数を事実上制限する規定です。難民条約は難民の可能性がある人の送還禁止を定めており、認定手続き中は送還が停止されます。今回の政府の改正案では、3回以上の申請に対しては原則として送還停止を認めず、強制退去の対象になるとしています。退去強制の拒否には刑罰を設けています。

 つまり、難民申請を制限する方向で長期収容を解消しようというのです。母国に帰れば迫害を受ける可能性がある人に日本からの出国を迫ることになりかねません。難民保護の礎石ともいわれる「ノン・ルフールマン原則」(迫害を受けるおそれのある国への追放・送還を禁じる国際法上の原則)に反するおそれがあります。


【外務省前で政府の入管法改正案に抗議する人々。100人以上が参加し外国人の姿も目立った。(2月17日、筆者撮影)】


 日本の難民認定率は、わずか0.4%。ドイツの25.9%、フランスの18.5%などと比べ、異常な低さです。日本が難民を認定しないことが、再申請を繰り返して在留資格のないまま日本にくらす外国人を増やすことにつながっているのではないでしょうか。

 2月1日、ミャンマーで軍事クーデターが勃発しました。軍部は民主的な選挙の結果を否定し、アウンサンスーチー国家顧問兼外相ら多くの政府の幹部を拘束し、市民の自由を奪っています。ミャンマーでは全土で自由を求める人々と治安部隊との激しい闘いが続いています。


【日本政府による支援を求め外務省前に集まったミャンマー人たち。日本への期待は大きい。(朝日新聞 2月28日) 】

 ミャンマーに人権を取り戻すために、日本ができることは何でしょうか。外交的な努力とともに、迫害を受ける人々を難民として受け容れることもミャンマーの人々への大きな支援になります。

 今後、弾圧を逃れて国外に出たミャンマー人が日本で難民認定を申請することもありえます。しかし今の日本では、その人たちも難民申請が認められず、在留資格がないとして入管に収容される可能性があります。事実、かつての軍事政権時代に日本に来た人で、難民認定されたミャンマー人はごくわずかです。これでは、日本政府に人権を口にする資格はありません。

 ミャンマーの事態は私たちに、日本国内にいる外国人の人権を尊重することの重要性をあらためて突きつけました。国際基準からみて大きく立ち遅れた難民認定制度と入管の「無期限収容」制度を抜本的に見直すことが、いま早急に求められています。

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