【高世仁のニュース・パンフォーカス】 足元にいる「難民」にも目を向けよう(その2)

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東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言で、日本の女性の人権に注目が集まっています。この機会に、日本で外国人の処遇に深刻な人権侵害があることにも目を向けたいと思います。

 前回に引き続き、日本の入国管理行政の問題点を考えていきます。

 法務省の入国管理施設9ヵ所に、国外退去処分を受けた外国人が収容されています。

 国外退去処分を受けた人のほとんどは、自費で帰国するか国費で送還されていますが、なかには帰国できない事情のある人がいます。

 その多くは、母国で迫害を受ける可能性がある難民申請中の人たちです。また、日本人と家庭を持つなどして日本に生活基盤ができたために帰国できない人たちもいます。


【被収容者中の難民申請者の割合 被収容者の4分の3は難民申請中の人である(難民支援協会の資料)】


 こうした帰国を拒む外国人を、出入国在留管理庁(入管)は「送還条件が整うまで」という建前で収容します。およそ2800人が、入管の施設に収容されるか、または一時的に解放される「仮放免」の状態でいるといわれています。

 この入管の収容措置が「国際人権法と国際人権規約に違反している」と指摘されるほどひどい状況をつくっているのです。

 2月3日、私はある裁判を傍聴するため、茨城県の水戸地裁土浦支部第2法廷にいました。

 午後2時半、被告人が法廷に入ってきました。手錠、腰縄をつけられた体は痩せ、うつむいた顔は青ざめています。被告人はヤドラ・イマニ・ママガニさんというイラン国籍の54歳の男性です。

 ヤドラさんは、茨城県牛久市の「東日本入国管理センター」(牛久入管)に2016年7月から収容されていました。収容期間は4年を超えます。

 去年9月1日、ヤドラさんは、牛久入管2階の医務室そばのトイレに入り、隠し持ったビニール袋に自らの糞尿と水道水を入れ、トイレから出たあと、それをまき散らして壁や天井を汚すという事件を起こしました。

 ヤドラさんは逮捕され、入管施設におよそ85万円の被害を与えたとして建造物損壊罪で起訴されたのです。 

【水戸地裁土浦支部前に集まった支援者たち 起訴状にある被害額は支援者たちがカンパで調達したという(筆者撮影)】 


 この日の公判で、ヤドラさんは、起訴状の事実関係をすべて認めました。

 そのうえで、被告人側の情状証人として、被収容者を支援している「牛久入管収容所問題を考える会」(牛久の会)の田中喜美子さんが証言台に立ちました。田中さんはヤドラさんと面会を続けていて、事情を詳しく知っています。 

 田中さんは、牛久入管では収容が長期化し、被収容者たちのストレスが募って、心のバランスを崩す人が相次いでいることを証言しました。

 前回のコラムで紹介したように、入管では期限を示されないまま、刑務所以下の厳しい環境のもとでの収容が続けられています。牛久入管でいま最も長く収容されている人の収容期間は7年にもなります。被収容者は、施設内で自殺する人が出るほど心身ともに追い詰められ、それに抗議してハンガーストライキも起きています。

【被収容者の内訳 長期に収容される人が増えている (難民支援協会の資料】 


 牛久入管では去年春から、コロナ対策で「三密」を避けるため仮放免を進め、300人以上いた被収容者がおよそ100人まで減りました。しかし、仮放免の対象にならなかったヤドラさんは「なぜ、4年以上も収容されているのに出られないのか」とふさぎこんでいたといいます。入管は仮放免を許可する基準を明らかにしていません。

 7月ごろからヤドラさんが目に見えて憔悴してきたため、田中さんはなるべくひんぱんに面会するようにつとめていました。ヤドラさんからは助けを求める手紙も届けられました。難しい漢字を使いこなした、しっかりした日本語の文章です。


【ヤドラさんの田中さんあての手紙 (田中喜美子さん提供)】


「精神的にも肉体的にも色々追い詰められて、毎日辛いです。新聞やテレビを見ると社会ではペットや野生動物の虐待や苛め等に社会の皆様が関心をもって、問題にしたり、採り上げられて裁判所や警察署に訴えられていますけど、ここで収容されている難民達がどんなに酷い目にあっても虐待されていることもどうにもならないです。」(原文のまま)

 手紙にある「虐待」とは、とくに収容施設の医療スタッフから理不尽な扱いを受けていたことだといいます。

 新任の男性医師の嫌がらせがひどく、心身の不調を訴えても診療を拒否される一方、説明もなしにスタッフに体を押さえつけられて無理やり点滴をされたこともあったとのこと。また、壁際に体を押しつけられて「犯罪者」と罵られたり、「あなたの人生は私の手の中にある。気にくわないなら日本から出ていけ」などの言葉を投げつけられたとも訴えていたそうです。

 私自身、面会した牛久入管の被収容者から、収容施設内の医療に対する不信感を何度も聞かされました。

 3年半収容されている、中東出身のある男性は、心臓に病気をもっており、去年9月、牛久愛和総合病院の専門医から「ニトロぺン舌下錠」の処方箋をもらいました。これは心臓発作のさいに飲む、よく知られた即効性の薬です。

 ところが入管の医師は「そんな薬は必要ない」と処方を拒否。そこで男性が病院の専門医に訴えると、その専門医は「ニトロペン」が彼に必要だとする書類を出してくれました。男性は書類を入管の医師に見せましたが、それでも再び処方が拒否されたといいます。

 私たち外部の者が被収容者と面会するのは、アクリル板ごしになります。男性は病院の書類や処方箋をアクリル板に押しつけて見せてくれました。たしかに病院のレターヘッド付きの書類に、担当医の名前入りで「ニトロペン」の必要性が書かれています。そして処方箋の方は、「ニトロペン」の上に大きな赤いバッテンがつけられ、処方が拒否されたことを示していました。

 これは弱い立場の被収容者への「暴力」にほかなりません。


【牛久の「東日本出入国管理センター」にも梅が咲いていた(2月3日筆者撮影)】


 田中さんはこの日の公判で、被収容者が自分の糞尿で施設を汚す行為が、ヤドラーさんのケース以外に「過去、何回もありました」と証言しました。

 こうした行為をした被収容者は、精神を病んでいるとして「茨城県立こころの治療センター」へ送られ、治療がすむと仮放免されてきたといいます。

 今回ヤドラさんには逮捕、起訴という異例の措置が採られました。被収容者に対して締め付けが厳しくなっているのではと、田中さんたちは懸念しています。


 事件後、田中さんが警察の留置場でヤドラさんと面会すると、本人もショックを受けているようすで「大変なことをやってしまった」と悔いていたといいます。ヤドラさんは事件当時、心神耗弱の状態だったと田中さんは理解しています。

 ヤドラさんは、本来は真面目できれい好き。世話好きで同情心が強く、お金を寄付してくれることもあったそうです。

 田中さんは、本人はいまとても反省しており、解放されたらお年寄りの面倒を見るボランティアをしたいと言っている、寛大な処置を求めます、と証言を締めくくりました。

 ヤドラさんの事件は、入管の収容制度の運用が「人間を壊す」ほどの過酷な状況をつくっていることを示したと思います。

 ヤドラさんたち長期の被収容者の願いは、一日も早い「仮放免」です。

 仮放免は人道的配慮から一時的に収容を解く措置ですが、しかしそれは自由で人間らしい生活を意味するわけではありません。

 仮放免されるためには、就労をしない、許可なく他県に移動しない、などを約束させられ、保証人が保証金を納めます。仮放免の期間は1,2ヵ月で、随時更新の手続きが必要です。

 実際には、家族とともにながく地域で暮らしている多くの仮放免者がいます。建前上は就労が禁止されていますが、生活保護は受けられず、生きていくには働かざるをえません。健康保険もないまま、3K職場でお金をかせぐことになります。

 私が牛久入管で面会した被収容者のなかに、仮放免中に解体の仕事をしていた人がいました。ある日、隣の県の解体現場で作業中、交通事故に遭いました。警察に届けたところ、就労と他県への許可なき移動がばれてしまい、仮放免が取り消され、即収容されたといいます。

 仮放免されても、いつ収容されるかびくびくして暮らさざるをえないのです。

 親が在留資格をもっていなければ、子どもも不法滞在となります。いま全国で、在留許可のない仮放免の子どもたちがおよそ300人いるといわれています。多くは日本で生まれ育ち、日本語しか話せません。彼らにとっての祖国は日本なのに、働くことも、高等教育を受けることもできない自らの将来に、大きな不安を抱えながら暮らしています。

 難民申請が拒否されたといっても、それは犯罪ではありません。在留許可がないという理由で、非人道的な扱いがこのまま放置されてはならないと思います。

 次回は、入管の収容がなぜ長期化してきたのか、現状をどう改善していけばよいのかについて考えます。

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