【高世仁のニュース・パンフォーカス】 WFPのノーベル平和賞受賞によせて~食料は平和への道

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今年のノーベル平和賞は国連世界食糧計画(WFP)に贈られました。

 WFPは世界最大の人道支援機関で、緊急時に人々の命を救う食料支援を届けるとともに、途上国の地域社会と協力して栄養状態の改善と強い社会づくりに取り組んでいます。

 12月10日の贈呈式は、新型コロナウイルスの流行によりオンラインで行われましたが、WFPの事務局長ビーズリー氏が述べたスピーチにドキッとさせられました。

 

 「私たちはどの子を食べさせて生かし、どの子を食べさせずに死なすのか、決めなければならなくなる。そんな選択を私たちにさせないでほしい。」

 いま世界では、飢餓人口が急増し、援助のための食糧配布に大きな困難が出ているというのです。

 どの子が生き、どの子が死ぬかを選択する。食糧援助の現場がそんな状況になりつつあるとは・・・。ビーズリー事務局長の「全員を救おう」との訴えに胸を突かれました。


【ビーズリーWFP事務局長(UN Newsより)】


 ビーズリー氏は「戦争や気候変動、飢えの政治的・軍事的な利用、パンデミックのために2億7千万人が飢餓に近づいている。対応できなければ飢餓のパンデミックが起きる」と危機感を露わにしました。いま世界は「危機のまっただ中」にいるというのです。

 この飢餓線上の2億7千万人のうち1億2千万人が、新型コロナウイルスの感染拡大のあと増加した人びとだといいます。

 新型コロナの感染者が中国・武漢市で初めて確認されてから、12月8日で1年となりました。世界の新規感染者は今も増え続け、累計で7000万人近くに、死者は150万人を超えました。

 各国はウイルスとの闘いに追われていますが、この災厄は弱い立場の人たちをより厳しく直撃し、世界に飢餓の拡大をもたらしています。

 国際NGOの「オックスファム」は、コロナに関連した飢餓の死者数が、年末までに1日1万2千人にものぼる恐れがあると指摘しています。


 WFPの受賞を伝える12月11日の『朝日新聞』の記事は、アフリカ・ウガンダでの活動のルポでした。

【朝日新聞12月11日付朝刊国際面】


【食料配給所の入り口で体温を測られる難民 (朝日新聞より)】


 南スーダンの戦闘から逃れた23万人が暮らすビディビディ難民居住区。2016年に南スーダンで起きた大規模な戦闘で難民が急増したときは、国際社会の関心も高く支援金も集まりましたが、次第に低調になり、WFPは恒常的な資金不足に陥っています。さらにコロナ禍で、感染対策費に約3億1千万円の出費を強いられ、職員の解雇にも踏み切らざるをえないといいます。

 今年4月から配給量を3割減らしましたが、結果6~12月、難民の約4割にあたる9万3千人が食料不足の危険度を測る国際的な基準で、5段階のうち2~3番目に深刻な「緊急」と「危機」レベルに分類されました。


 近くの工事現場に水を運んだり、薪を集めて売ったりして週500~千円程度の現金を稼いてきた難民も、コロナ禍で工事がなくなり、収入が途絶えました。

 WFPの現地担当者は、「さらに配給量が減少すれば、窃盗や暴力行為、売春などが増える恐れさえある」と今後を憂慮しています。

 食料不足が深刻な国を世界地図にあらわすと、一定の地域に集中していることが分かります。「飢餓ベルト」と呼ばれ、その共通点は内戦などの紛争が続いていることです。


【飢餓ベルト(NHKより)】


 WFPの支援重点国の一つが中東のイエメンです。

 イエメンではハディ政権と、反政府勢力フーシ派との間で5年以上内戦が続き、多くの住民が住む家を追われ、世界最悪の人道危機が起きています。

 WFPの10月の調査では、深刻な栄養失調の状態にある子どもは、ことし1月と比べて9%増えて58万人余りに上り、このうち緊急に手当てを行わなければ命の危険もある子どもも15%増えて約9万8000人に上るといいます。

 子どもの栄養不足をWFPは特別に重視しています。幼いころの飢餓は将来、肉体だけでなく精神の成長にも取り返しのつかない長期的なダメージを与えます。飢餓との闘いは、一人の子どもの命だけの問題ではなく、国の根幹を左右することにもなるのです。


【WFPの食料を受け取るイエメンの子ども(WFPより)】


 治安の悪い場所では、WFPの食料支援は命懸けの活動になります。

 中央アフリカ共和国では2013年に中央政府が崩壊。武装勢力が各地を支配し、去年和平合意にいたるも、政府は国土の3割しか当地できていません。PKO部隊が治安回復に当たっていますが、食料不足が全国に広がるなか、WFPのトラックが何度も襲撃され犠牲者も出ています。


【中央アフリカ共和国のPKO部隊(NHKニュースより)


 戦乱が食料不足を加速し、また食料をめぐって争いが起きる。紛争地での危険をも引き受けながら、WFPは強い使命感で活動をつづけています。


 人間にとっての基本は食べること。この当たり前のことを気づかせてくれたのが、アフガニスタンで人道支援にあたった中村哲医師でした。

 100の診療所より1本の用水路を。腹いっぱい食べられれば、病気にもならないし、争いもおこらないと中村さんは考え、一から土木を学び、現地の人々と用水路を建設したのです。広大な荒れ地は、今では65万人の暮らしを支える緑の沃野に変貌しています。


【中村医師が造った用水路で左の荒れ地が右の沃野に変貌(写真はペシャワール会)】


 中村さんこそノーベル平和賞にふさわしい人だったと私は思いますが、去年の12月、中村さんは何者かの凶弾に倒れ、帰らぬ人となってしまいました。

 アフガニスタンでは、国が荒廃して仕事に就けず、家族を支えるために武装勢力の兵士にリクルートされる若者が多くいます。「毎日メシが食えれば平和になる」との中村さんの言葉どおり、用水路ができた地域は人心が落ち着き、治安も回復してきた矢先の悲劇でした。

 現地で多くの人々に愛された中村さんが亡くなって1年、アフガニスタンでは政府主催の追悼式典が催され、1000人が恩人を偲びました。


【『カカ・ムラド』(中村のおじさんという愛称)】


 中村さんの1周忌にあたる12月4日、日本では、1冊の絵本が発売されました。中村さんの功績を伝えようと現地のNGOが制作した絵本が、日本語に翻訳されたのです。

 絵本の原作を担当したザビ・マハディさん(32)は「アフガニスタンに中村さんのような方が10人いれば、今ある様々な問題は起きていなかったでしょう。私の望みは中村さんがやり残したことを皆で実現し、この国すべての大地を潤すことです」と語っています。

 絵本は現地の学校に配られ、子どもたちに読まれているといいます。


【『カカ・ムラド』の原作者、サビ・マハディさん(NHKより)】


 いま、アフガニスタンでは、中村さんの遺志を継ぎ、用水路の建設を国全体に広げようと志願する若者たちが現れています。みんなが安心して食べられるようにする彼らの努力が、平和な国づくりにつながることを祈らずにはいられません。

 WFPのビーズリー事務局長は、ノーベル平和賞の贈呈式のスピーチで「食料は平和への道だ」と語っています。

 消費者庁によれば、日本では、年間2,550万トンの食品廃棄物等が出されています。このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品、いわゆる「食品ロス」は612万トン。

 これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量の1.6倍に相当します。

 WFPのノーベル平和賞受賞をきっかけに、この飽食の国で、食料と平和との関係について考えてみたいと思います。

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